ステップ応答を見てみよう、自作ヘッドホンアンプ
11月11日の独身の日セールでオシロスコープを買いました。早速、自作ヘッドホンアンプに搭載したオペアンプのステップ応答を見てみました。これまで持っていたショボいオシロスコープで、周波数特性は分かっています。今回は、矩形波を入力して、ステップ応答を見てみようと思います。
今回計測する自作ヘッドホンアンプにはオペアンプを使っています。このオペアンプを入れ替えながら、ステップ応答がどのように変わるか見てみます。
測定するアンプは↓これです。電圧増幅はオペアンプで行います。電力増幅はSS8050とSS8550を使用したプッシュプル回路で行っています。
オペアンプはソケットを介して取り付けています。オペアンプを差し替えて、出力波形の変化を見ていくことにします。
NJM4558D使用時のステップ応答
先ずは私の大好きなオペアンプ、NJM4558Dです。標準状態ではNJM4558Dを挿して使っています。
黄色の線が入力信号で、水色の線が出力信号です。設計が古いオペアンプです。スルーレートが1V/μsと、なかなかマイルドな特性が出力波形にも表れています。信号の立ち上がりと立ち下がりが遅いため、波形が鈍ってしまって台形になっています。しかし、この画像を見て4558は音が悪いという判断を下すのは拙速です。実際のところ、音楽ソースに20kHzの矩形波が入っていることは先ずないでしょう。しかも、可聴域ぎりぎりの周波数ですから、これが印象に影響を与るとは思えません。また、ここでは敢えてアンプの特性の差が出やすいように矩形波を入力しています。しかし、正弦波であれば4558でもしっかり増幅できます。
NJM2114N使用時のステップ応答
オーディオ用として名高いオペアンプであるNE5532を改良したオペアンプです。データシートにはNJM5532のスルーレートを改善したものと記載されています。今回の測定に使用したNJM2114は、SOPパッケージのものです。変換基板でDIPソケットに実装できるようにして使用しています。
4558と比較すると、信号の立ち上がりが早いことが一目でわかります。しかし、若干ではありますが出力信号の肩の部分に角のような出っ張りが見られます。この出っ張りはオーバーシュートとも呼ばれます。入力素子に、バイポーラトランジスタが使用されたオペアンプでよく見られます。しかし、この程度のオーバーシュートであれば、再生音への影響は無いと思います。
LM6172N(SOP)使用時のステップ応答
このオペアンプは、映像品号の増幅に使えるものです。オーディオ用ではなくビデオ信号増幅を主な用途として作られたとのことです。
さすが、映像信号増幅用のオペアンプです。20kHzの矩形波増幅など朝飯前なのでしょう。気持ちよいほどビシッと角の立った出力波形です。信号の遅れも全く見られません。
NJM4556D使用時のステップ応答
このオペアンプは、NJM4558のスルーレートを改善したものです。併せて高出力化もされています。データシートには、ヘッドホンアンプとしても使えると記載されています。実際、かなり力持ちなオペアンプです。ヘッドホンは楽々鳴らせます。さらに、ポケットラジオに使用されるような小さなスピーカーもそれなりに鳴らせます。
僅かにオーバーシュートが出ています。しかし、この程度であれば特に対策は必要ないと思われます。4558使用時の波形と比べると、信号の追従性が改善されていることが分かります。
OPA1612使用時のステップ応答
近代的なオペアンプで、その特性は秀逸です。ひずみ率は0.000015%と、驚く程小さく、スルーレートは27V/μsです。これだけ見てもかなり高性能なオペアンプです。
“見事!”と言いたいところですが、オーバーシュートが出ています。非常に短いパルス状のオーバーシュートです。従って、仮にヘッドホンから出たとしても、音としては聞き取れないでしょう。ただ、何となく気持ち悪いですね。このオペアンプはBurr-Brown™ Audio, Premium Soundという指標に準じています。
オーディオ用途に特化したオペアンプです。設計が新しく、近年のオーディオ製品に組み込むことを念頭に作られています。したがって、旧式のDIPパッケージの供給はありません。表面実装用のSOICとWSONで供給されます。今回はSOICパッケージを変換基板でDIPに変換して使用しました。
LT1364使用時のステップ応答
スルーレート1000V/μsという、高速な増幅能力を持ったオペアンプです。しかし、私にとっては苦手なオペアンプで、とにかく発振しやすいです。私の経験では、電源部分をいい加減に作ると、簡単に発振してしまいます。タチが悪いことに、発振が始まると猛烈に発熱して、触れないほどになってしまいます。鬼門といっても良いほど嫌いなオペアンプです。
気持ち良くビシッと立ち上がって、ビシッと立ち下がる、美しい波形です。オーバーシュートもありません。言うことなしです。データシートには、用途として以下のように記載されています。
- 広帯域アンプ
- バッファ
- アクティブ・フィルタ
- ビデオおよびRFの増幅
- ケーブル・ドライバ
- データ・アクイジション・システム
そもそもオーディオ用ではないのですね。さて、どの程度の周波数までビシッと増幅できるか、試してみました。
使用しているオシロスコープに内蔵のファンクションジェネレータの方が限界です。LT1364はまだまだ行けそうですね。恐るべしLT1364。オーディオ用としては、明らかに過剰な性能です。
OPA2604(恐らく偽物)使用時のステップ応答
OPA2604といえば、信号経路すべてがFETで構成された超高級オペアンプです。そんな高嶺の花のOPA2604がAliexpressですごく安く売っていました。そして、偽物と承知で買いました。そんな、いわくつきのオペアンプを試してみました。
んんーーー。JFET入力の特有のなで肩の波形が出ていませんね。これ、OPA2604でないことは明らかです。つまり、偽物確定です。FETですらなくて、バイポーラ入力のオペアンプのような波形です。恐らく表面を削って型番を書き直しただけではないかと思われます。波形から察すると、中身は安価に流通している4559あたりではないでしょうか。
OPA2134(恐らく偽物)
このオペアンプは入力段にJFETを使用したオペアンプです。某ヘッドホンアンプ制作者が絶賛してから人気の出たオペアンプです。人気の品で、プレミア価格で取引されることも少なくありません。そんなOPA2134がAliexpressで安価に売られていました。転売して一儲けしようと大量に購入しました。(嘘です、転売はしません。)
JFET入力のオペアンプの特徴的ななで肩の波形が出ています。OPA2134のスルーレートは20V/μsです。波形からは、何となくそれっぽい感じを受けます。もしかすると本物?いや、そんなことはあろうはずがありません。この後のLF353,LF412等の安価なJFET入力のオペアンプと似た波形です。これらの安価な品の型番を書き換えて偽装しているのではないかと思います。
LF353N
JFET入力のオペアンプです。最低電源電圧が±3.5Vとやや高めで、電池駆動では使いにくいオペアンプです。しかし、スルーレートは13V/μsと立派です。オーディオ用としては十分でしょう。かなりラフに設計した回路に組み込んでも発振することは先ずありません。とても使いやすいオペアンプです。
JFET入力のオペアンプらしい、なで肩の出力波形です。LF353Nは古いオペアンプで、性能も凡庸ですからとても安く入手できます。使われ続けてきたオペアンプが等しく持つ使いやすさが極まったオペアンプです。電源電圧が確保できる回路であれば組み込んで失敗をすることは無いでしょう。個人的に最大級の信頼を置くオペアンプです。おススメです。
LF412
前出のLF353と同等の性能を持ったオペアンプです。LF353とLF412は非常に似通っています。強いて違いを挙げるなら・・・。①入力オフセット電圧が低い(LF353は10mV、LF412は3mV)。②出力電流が少し多く取れる(LF353は20mA、LF412は25mA)。その程度の差しかありません。決定的な違いではありませんので、私は安価に入手出来るLF353Nが好みです。
前出のLF353とほぼ同等の性能を持ったオペアンプです。したがって、出力波形は同一といっても良いのではないでしょうか。そして、OPA2134(恐らく偽物)の波形もすごく似ています。何れにせよ、LF353とLF412はとても使いやすいオペアンプです。そして、ものすごく安く販売されていますのでお勧めです。必要電源電圧が高めなのが玉に瑕ですが。
NJM2068N
このオペアンプはNJM4558の改良版です。スルーレートの向上、広帯域化、低雑音化した旨がデータシートに書かれています。雑音に関しては4558が極端に多いというわけではありません。個人的にはあえて手を出さなくてよいオペアンプではないかと思います。でも、何故か購入してしまいました。
うたい文句どおり、信号の立ち上がりが急峻です。このことから、スルーレートが4558と比較して改良されていることが解ります。でも、なんか変ですね。立ち上がり直後の信号が盛大に暴れています。オーバーシュートの収束に時間かかっている状態で、リンギングと呼ばれます。リンギング部分の周波数はかなり高いはずです。ですから、たとえ耳に入ったとしても感じ取れるはずもありません。しかし、ちょっと気持ち悪いですね。入手性もあまりよくありませんから、あえて食指をのばさなくても良いでしょう。スルーをお勧めします。
NJM4580D使用時のステップ応答
オーディオ用オペアンプの定番です。入手性良し、価格良し、使いやすさ抜群です。特に電源電圧は±2Vで動作しますので、電池駆動の機器でも使いやすいと思います。また、データシートにはヘッドホンを直接駆動できる旨記載されています。オーディオ用オペアンプと言ったらコレを選んでおけば、間違いありません。
ちょっとリンギングが出ていますね。でも、この程度なら無理に対策する必要は無いと思います。絶対に消したいのであれば、負帰還抵抗と並列に小さなコンデンサを入れればOKです。
リンギングは、矩形波を入力していることが大きな要因です。ステップ応答の結果から、4580は劣っているという判断は拙速でしょう。
TL082(偽物疑惑あり)
エレキギターのエフェクターにTL072が使われることが多いそうです。TL072はTL082を改良し低雑音化そたものです。つまり、兄弟関係にあります。しかし、個人的には手に負えないオペアンプだと思っています。出てくる音にざらつきがあって、このざらつきどうにも好きになれません。何とかざらつきを抑えようと頑張ってみました。しかし、どうにもならず、お手上げになったオペアンプです。(以前作ったClassAA回路の電力増幅に使ったら消すことができました。)
??????なんだこれ?異常なステップ応答です。0V付近に謎の段付きがあります。しかも立ち上がりが無茶苦茶遅い。これ、出力段がA-B級動作をあきらめてB級動作になっているように見えます。道理で音がざらついて聞こえるはずです。今回使っているヘッドホンアンプは、他のオペアンプではきちんと動作しています。したがって、あえてTL082用に改造はしません。TL082は、またまた放置ですね。
※ここで使用したTL082ですが、偽物であることが判明しました。詳しくはこちらで。
NJM12904D
何故このオペアンプが私のところにあるのかは不明です。恐らく、誤って他の部品に紛れ込んで私の手元に来たものと思います。このオペアンプはこれまでのオペアンプと異なり、単電源用のオペアンプです。これまでのオペアンプは、全て両電源で動作するオペアンプです。入出力信号の基準は電源電圧の中点です。つまり、両電源オペアンプにはグランド端子がありません。一方、この単電源オペアンプは、マイナス端子を基準として動作します。今回作成したヘッドホンアンプの回路は両電源オペアンプ用です。そもそもこのオペアンプには適していません。
ダメ元で動かしてみましたが、やっぱり駄目ですね。ステップ応答のマイナス側の波形がゴニョゴニョしていますし、0V付近に段が付いています。
と、いうことで、手元にあるオペアンプを取り換えながら、ステップ応答を見ました。ヘッドホンアンプの出力波形は、ヘッドホン接続端子から取っています。したがって、オペアンプの後の電力増幅回路を通った後の波形です。電力増幅段で使用したトランジスタはSS8050とSS8550です。これらのfrはミニマムで100MHzです。控えめに見ても10MHzくらいまでは楽に増幅できるはずです。したがって、今回の測定には影響を与えていないと思います。
1件のコメント
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P.S. ここで検証したTL082は後に偽物であることが判しました。また、ここでダメ出しをしているNJM12904Dを少しの改造で、両電源回路で動かす方法もみつかりました。