アリエクのUA741が偽物オペアンプだった
UA741をアリエクで買ったら、予想通り偽物オペアンプでした。UA741は、使い古されたオペアンプです。また、一つのパッケージに一つのオペアンプが封入されています。そして、二回路入りオペアンプと異なり、出力信号のオフセット調整用トリマを接続する端子を備えています。今回UA741に手を出したのは、オフセット調整機能を試してみたかったためです。
アリエクでオペアンプを買ってはいけない
これまでも、アリエクにはさんざん騙されてきました。でも、古くて安いUA741なら偽物は無いと思っていました。しかし、淡い期待は見事に裏切られました。騙されるたびに思うのですが、偽物オペアンプは質が悪いです。なぜなら、偽物であってもオペアンプとしては動作してしまうからです。偽物か否かを見極めるには、データシートと実物の違いを見つけ出さなければいけません。これには、手間もかかりますし、測定機材も必要です。その為でしょうか、大部分の人が偽物であることに気づかずに、販売者を高評価しています。
買ったUA741が偽物である証拠
オペアンプの真贋を鑑定するためには、データシートを参照することが肝心です。UA741も古いとは言え、現行品です。データシートはネットで参照できます。そして、データシートの中でも等価回路図が肝心です。
先ずは、この回路図の中で、真贋鑑定に使えそうな場所を見つけます。UA741の場合には、Vcc-端子とOFFSET N1,OFFSET N2の間に抵抗が入っています。この回路図では抵抗値は記されていませんが、他社のものでは1kΩとされていることが多いです。早速4番ピン(Vcc-)と1番ピン(OFFSET N1),5番ピン(OFFSET N2)の抵抗値を測ります。
4番ピンと1番ピンの間はオープンでした。つまり、1番ピンは何処にも繋がっていないということです。
クロスオーバー歪みのチェック
オフセット調整端子が機能していませんので、偽物であることは確定です。では、中身はどのようなオペアンプが入っているのでしょうか。確認のためにステップ応答試験をしてみました。ブレッドボードで、ボルテージフォロワ回路を組み、テストしてみました。
出力波形は、クロスオーバー歪みを含んでいました。
クロスオーバー歪みが盛大に出ています。このことから、偽物UA741の中身は単電源オペアンプだと思われます。
なぜ偽物オペアンプでクロスオーバー歪みが発生するのか?
単電源オペアンプを両電源回路で使用すると、なぜクロスオーバー歪みが発生するのかについて考えてみます。
上の図は、単電源オペアンプの多くが採用している出力部分を簡略化したものです。単電源の回路では、負荷となるR3は図の下部にある-6Vのラインに接続されます。しかし、両電源回路では、負荷は0Vに接続されます。つまり、負荷のグランドレベルが、-6Vか0Vかの違いがクロスオーバー歪みの発生原因です。両電源使用時、出力信号が+の場合は、トランジスタQ1とQ2(ちょっとだけQ3)が働きます。そして、出力信号が-側のときはQ4が働きます。つまり、信号が0Vのラインを跨ぐときに、トランジスタの切り替えが行われます。この時にクロスオーバー歪みが発生します。
回路シミュレーターでもクロスオーバー歪みが再現されました。
偽物オペアンプのクロスオーバー歪みを消す
オペアンプで発生するクロスオーバー歪みを無くすには、入力側での対策と、出力側での対策があります。しかし、出力側での対策の方が簡単なので、出力側での対策を行ってみようと思います。
上の図はクロスオーバー歪み対策を施した回路図です。変更点は一か所、R4を追加しただけです。R4を追加することで、出力端子の電圧を下げるのがポイントです。出力端子の電圧をQ4のベース端子よりも低くすることで、Q4が動作しないようにします。これにより、Q1とQ2の動作範囲が広がり、Q4との切り替えが起きなくなります。R4の抵抗値は負荷抵抗R3の半分くらいが目安となります。なお、R4の追加により、オペアンプはA級動作になります。A級動作は気分的に良いですよね。
偽物オペアンプのクロスオーバー歪みを消してみた
単電源オペアンプのクロスオーバー歪み発生の原因と対策が分かりました。そこで、今回掴まされた偽物UA741にも対策してみました。
クロスオーバー歪みは見事に消えました。出力端子とマイナス電源端子の間に抵抗を1本追加するだけで簡単にクロスオーバー歪みを消せます。ただし、この方法は出力側にインピーダンスの低いものを接続することはできません。したがって、直接イヤホンやヘッドホンを接続するのは不適当です。そのため、電力増幅回路の追加が必須と考えた方が良いと思います。