スルーレート重視のヘッドホンアンプ
スルーレート重視のヘッドホンアンプを作ります。これまでは、スルーレートよりは、オフセットを重視してきました。そして、満足できる結果を得られたと思っています。
しかし、音声増幅用としては十分とは言え、1V/μSに満たないスルーレートは何とかしたいところです。そこで、今回はオフセットや消費電力の増大は許容し、スルーレート重視のヘッドホンアンプを作ってみました。
スルーレートを大きくするには電力が必要
これまで結構な数のヘッドホンアンプを作ってきて、スルーレートを大きくする方法は分かっていました。それは、回路の低インピーダンス化です。低インピーダンス化し、トランジスタの動作電流を大きくすることでスルーレートは向上します。しかし、これには弊害もあります。低インピーダンス化により、高域での位相回転が大きくなります。その結果、オーバーシュートが大きくなり、発振に発展することもあります。また、低インピーダンス化によって、出力のオフセットが大きくなることが多いように思います。
ピン配列の異なるトランジスタを使用する
今回は、回路の低インピーダンス化に併せて、ピン配列が逆のトランジスタを使用します。使用するPCBは、もともとピン配列の異なるトランジスタ使用にも配慮しています。今回は、使い慣れたBC547,BC557とピン配列が逆なS9014,S9015を使用することにしました。
今回使用するS9014は、プリアンプ用に設計されたトランジスタです。プリアンプ用ですから、取り出せる電力は控えめです。しかし、増幅度(hFE)は大きめになっています。また、低ノイズ設計となっています。
スルーレート重視の回路設計
今回の設計では、差動増幅部を低インピーダンス化しました。これまでは、高インピーダンス化によって、オフセット低減と発振耐性の向上を図っていました。しかし、今回はオフセットの増大や発振耐性の低下は受け入れる設計にしました。
変更点は差動増幅回路の抵抗と、電源部の分圧抵抗です。しかし、ダイアモンドバッファと電力増幅部については、改善の余地がありませんので、そのままです。
組み立て
今回は、以前作成したPCBをそのまま使用しましたので、部品をPCBに植えて、はんだ付けするだけです。そして、出来上がったのがコレです。
今回は、いつもとピン配列の違うトランジスタを使いました。比較のために、今回作ったものと、前回作ったものを並べてみました。
二つの基板を並べてみました。左側の画像が今回作ったスルーレート重視のヘッドホンアンプです。使用したトランジスタはS9014,S9015です。そして、右側の画像が、BC547,BC557を使用したヘッドホンアンプです。トランジスタの向きが逆になっているのがお分かりいただけると思います。
スルーレート重視ヘッドホンアンプの性能試験
いつものように、試験信号を入力し、増幅後の波形を観察します。先ずは、正弦波を入力し、増幅後の波形を観察します。
正弦波については、測定したすべての周波数で、波形の乱れはありません。心配していた、オフセットも見られません。実際に、テスターを使って、無信号時のオフセットを測ってみました。
低インピーダンス化による、オフセットの増加は、覚悟していました。しかし、実際に測定してみると、1mV以下でした。これは、良い意味で誤算でした。しかし、オフセットは、トランジスタの温度によって、かなり変化します。したがって、この値は参考程度に受け止めておけば良いでしょう。実際にオフセットが100mV未満であれば問題は無いと思います。
次に、矩形波の測定結果を見てみましょう。
矩形波に関しては、1Hz,1kHzは綺麗な波形です。しかし、20kHzでは、オーバーシュートが大きく出ていることが解ります。このオーバーシュートは、インピーダンスを下げたことによる弊害です。しかし、実際には音声信号に20kHzの矩形波が入っていることはありませんので、無視できます。
スルーレート重視の設計で、スルーレートは向上したのか?
今回の設計で目指した、スルーレートの向上は実現できたのでしょうか?スルーレートの測定を行ってみました。
測定の結果、240nSで1.59Vの出力変動となりました。これを1μSあたりの値に換算すると、6.625V/μSとなりました。以前制作したヘッドホンアンプのスルーレートは1.35V/μSでしたので、かなり向上しています。スルーレートは電源電圧に比例します。今回は、電源電圧9Vでの測定でした。これを、オペアンプのスルーレート測定条件±15Vに換算すると、22V/μSとなります。これは、高音質オペアンプの代表、OPA2134を凌駕する数値です。
スルーレート重視は実現したけれど、問題も発生
スルーレート重視の設計により、狙い通りスルーレートは向上しました。しかし、問題も発生しました。
ヘッドホンアンプに入力する信号を大きくしていくと、問題が発生しました。入力信号が、過大になった場合、出力波形は頭打ちになります。これはクリップと言われる現象です。通常は、信号の+側と-側に等しくクリップが発生します。しかし、今回制作したヘッドホンアンプでは、-側にだけクリップが発生しました。
これは、差動増幅段の動作点が不適切なために発生した現象です。これまで、差動増幅回路のエミッタ抵抗と、コレクタ抵抗の比は経験に基づき、1:2としていました。しかし、インピーダンスを下げた場合、この1:2という抵抗の比率は不適切なようです。
今回制作したヘッドホンアンプについては、実用的な音量で使用する場合、問題はありません。しかし、低インピーダンス回路で適切な設計については、改めて検討したいと思います。