攻めすぎて失敗-インピーダンスを下げ過ぎたヘッドホンアンプ
攻めすぎて失敗しました。スルーレートを上げるために、差動増幅回路の低インピーダンス化を図ってきました。しかし、今回は失敗でした。なぜ失敗したのか、その原因と、対処方法を備忘録として残しておきます。
前回の反省点
前回制作したヘッドホンアンプでは、差動増幅回路のインピーダンスを下げ、スルーレートの向上をしました。しかし、使用したトランジスタS8050とS8550の高周波特性の高周波特性はあまりよくありません。そのため、オーバーシュートが目立ちます。恐らく、オーバーシュートというよりも、リンギングが発生していると思われます。
波形を見ると、信号の立ち上がり部分に、オーバーシュートが見られます。このオーバーシュートを何とかしたいと考えました。もちろん、負帰還抵抗と並列に進相コンデンサを設置すればオーバーシュートは無くなるでしょう。しかし、その場合には、波形が鈍るという弊害が出ます。また、信号経路にコンデンサを入れたくないという信条に反します。
攻めすぎて失敗した回路
まず、S8050,S8550よりも高周波特性が良いトランジスタBC548,BC558を使用することにしました。また、さらにスルーレートを高めるため、一段目差動増幅回路のインピーダンスを思い切って下げました。しかし、一段目差動増幅回路のインピーダンスを下げたことにより、オフセットが大きくなりました。対策として、負帰還量を大きくする必要がありました。
一段目差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗を10kΩにしました。シミュレーションの結果、一段目差動増幅回路の抵抗器変更により、出力オフセット増加が判りました。この、出力オフセットを抑えるため、負帰還量を大きくしました。負帰還量を多くするために、負帰還抵抗を200Ωに、接地抵抗を47Ωにしました。
攻めすぎて失敗したヘッドホンアンプの性能試験:スルーレート
先ずは、スルーレートを確認してみましょう。
攻めすぎて失敗したヘッドホンアンプのスルーレートは、かなり優秀でした。測定の結果、84nSあたりの電圧変化は3.98Vでした。これをマイクロ秒あたりの値に換算すると、47.3V/μSとなります。電源電圧9Vで、この値は驚異的です。
攻めすぎて失敗したヘッドホンアンプの性能試験:正弦波
正弦波を美優力した時の、出力波形を見てみましょう。
1Hz正弦波の波形は大変綺麗なものです。また、振幅もP-Pで6.5V確保できています。これは、一段目差動増幅回路の低インピーダンス化により得られた効果です。
1kHzの正弦波には、ノイズも歪みも見られず、大変綺麗に再現されています。
1Hzから20kHzまでの正弦波を入力した時の出力波形は、ノイズや歪みは見られず、大変綺麗です。また、周波数による振幅の変動も僅かです。
攻めすぎて失敗したヘッドホンアンプの性能試験:矩形波
矩形波を入力した時の、増幅後の波形を観察します。
1Hz矩形波の増幅後波形は綺麗です。
20kHz矩形波の出力波形に、オーバーシュートが見られます。しかし、オーバーシュート部分は、針のように細くなっています。これは、トランジスタを高周波特性の良いものに変更したことによるものでしょう。
攻めすぎて失敗したヘッドホンアンプの性能試験:リニアリティ
攻めすぎて失敗したヘッドホンアンプのリニアリティーを確認します。この試験では、三角波と階段波を入力し、増幅後の信号波形を観察します。出力波形が直線で構成されていれば、入力電位による増幅率の変動はありません。しかし、波形が直線で構成されていない場合、歪みが存在することになります。
階段波については、段差が均一であることで、リニアリティ(直線性)を確認できます。しかし、段差が均一でない場合には、歪みが生じていることになります。
三角波、階段波ともに、理想的な波形と言って良いでしょう。
無信号時出力電圧オフセット
無信号時出力電圧オフセットの測定結果は以下のとおりです。
信号オフセットは、一段目の差動増幅回路でコントロールされます。今回は一段目差動増幅回路で使用するトランジスタのVbeを計測し、同じ値になるよう選定しました。そのためもあってか、オフセットは小さくなりました。
性能試験の結果は良好だった・・・けど
差動増幅回路の低インピーダンス化を図った結果、狙い通りスルーレートは向上しました。しかし、低インピーダンス化による出力オフセットの増加が予想されました。スルーレートの向上と、オフセットの抑制を如何に両立するかが課題でした。
負帰還量を大幅に増やすことで、オフセットを抑え込むことにしました。負帰還量を大きくするため、負帰還抵抗を200Ωとし、負帰還接地抵抗を47Ωとしました。その結果、本来反転入力にだけ帰還される負帰還信号が、非反転入力にも流入する現象が発生しました。この現象は、特定の条件で発生します。
実際にボリュームを絞り込むと、非反転入力がグランドと導通した状態になります。すると、負帰還回路に入るべき信号が、グランドを通じて、非反転入力にも入ります。つまり、出力が非反転入力に入ることにより、発振が始まるわけです。
この発振は、出力に何もつながっていない時で、ボリュームを絞り込むと発生します。しかし、発振周波数は、可聴周波数を大きく上回っています。そのため、実使用時には問題になりません。しかし、この発振により、電力増幅回路に発熱が見られましたので、放置はできません。
したがって、今回のヘッドホンアンプはボツにします。しかし、負帰還量を無闇に増やしてはいけないという教訓を得ることができました。