さらに高みを目指す:ヘッドホンアンプへの興味は尽きない

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さらに高みを目指すことにしました。

前回制作したヘッドホンアンプで、性能的には頂点に達したと思っています。スルーレートは、オーディオ用としては十分すぎる値をたたき出してくれました。また、増幅可能な周波数範囲も、下はDCから、上はメガヘルツオーダーまでカバーしています。しかも、その広い周波数範囲で、増幅率の変動はほとんどありません。つまり、呆れる程広い周波数を帯域を、呆れる程フラットな周波数特性でカバーします。

しかし、欠点も無いわけではありません。それが、動作電源電圧です。残念ながら、電源電圧の変動にはあまり強くありません。そこで今回は、この欠点に対応したヘッドホンアンプを設計します。

さらに高みを目指す前に、これまでのおさらい

これまで、本当に沢山のヘッドホンアンプを作りました。新しいヘッドホンアンプを作る度に、満足しました。しかし、もっと良いものは作れないか、という欲が出てきます。ヘッドホンアンプ作りも、最初はオペアンプを使用して作っていました。しかし、オペアンプでは、隔靴搔痒の感をぬぐえません。

そこで、オペアンプとトランジスタを組み合わせたりもしました。また、アンプICを使用したこともありました。そして、最終的に、トランジスタを使った、ディスクリートなヘッドホンアンプに興味が移りました。

当初は、静的特性を重視し、高インピーダンスな回路を設計していました。しかし、ここ最近はスルーレートを重視した設計に興味は移ってきました。

最初は、自己バイアス回路に。プッシュプルを組み合わせた単純な回路から手を付けました。しかし、こういった単純な回路では、アンプ内部のステージごとにコンデンサが必要でした。しかし、信号経路にコンデンサを使用したアンプは、低い周波数の取り扱いが不得意です。そこで、直流でも増幅できる差動増幅回路を使用するようになりました。さらに、トランジスタの非線形性をキャンセルするために、二つの逆極性差動増幅回路を使用しました。また、低い消費電力で、正確なボルテージシフトができる、ダイアモンドバッファも採用しました。

さらに高みを目指す:回路設計

さらに高みを目指すといっても、今回はあまり多くのことはしません。なぜならば、前回制作したヘッドホンアンプで、必要以上の性能が既に得られていたからです。今回は、電圧増幅の大部分を受け持つ、二段目の差動増幅回路を定電流動作にします。これにより、電源電圧変動に対する安定性を向上させます。併せて、更なる低インピーダンス化も行いました。そして、出来上がった回路がコレです。

さらに高みを目指すために:二段目差動増幅回路を定電流動作にしたヘッドホンアンプ回路図
二段目差動増幅回路を定電流動作にしたヘッドホンアンプ回路図

回路設計のポイント

二段目の差動増幅回路を定電流動作させるため、二つのトランジスタQ3とQ5を加えました。併せてRe2を、前回の300Ωから20Ωに大胆に下げました。これにより、さらにスルーレートが向上すると思います。併せて、一段目差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗を20kΩから10kΩに、こちらも大胆に下げました。

電源電圧の変動に強くするためには、一段目の差動増幅回路も定電流化すべきです。しかし、シミュレーションの結果、位相回転が大きくなり、発振しやすくなるという結果となりました。これには、二つ対策があります。一つは、帰還抵抗Rfと並行に進相コンデンサを設置し、位相補償を行う方法です。もう一つは、一段目差動増幅回路の高インピーダンス化です。しかし、前者は個人的なこだわりで、避けたい対策です。そして、後者はスルーレートが低下するはずです。一段目差動増幅回路の定電流動作については、一旦見送ることにしました。

さらに高みを目指す:シミュレーション

今回設計した回路のシミュレーション結果を見てみましょう。

先ずは、微小信号の増幅を見てみましょう。入力信号は1mV(P-Pで2mV)の1kHz正弦波です。

さらに高みを目指す:シミュレーション結果:微小信号の増幅
シミュレーション結果:微小信号の増幅

オフセットは1mVです。実機で、オフセットがこの程度に収まっていれば上出来です。

次に、出力を飽和させ、クリップ幅を見てみましょう。

さらに高みを目指す:シミュレーション結果:出力飽和
シミュレーション結果:出力飽和

電源電圧9Vで、飽和電圧はP-Pで5.4Vでした。出力はそこそこ取れそうです。

次に、周波数特性と位相回転のシミュレーション結果を見てみましょう。

さらに高みをめざす:シミュレーション結果:周波数特性と位相回転
シミュレーション結果:周波数特性と位相回転

周波数特性は、可聴域でフラットです。1MHzを超えたあたりから、利得が上昇し、ピークとなる12.8MHzで、33dBまで利得が上昇します。一方、位相回転は4MHzあたりから顕著になります。利得のピーク、12.8MHzでの位相回転は-72°で、マージンは十分とれています。したがって、発振の危険性は低そうです。

以上のシミュレーション結果から、この回路は安定していると言えるでしょう。

設計変更で電源電圧の変動に強くなったのか?

次に、電源電圧5Vと14V時の出力飽和をシミュレーションしてみます。まずは電源電圧5V時のシミュレーション結果です。

さらに高みを目指す:シミュレーション結果:電源電圧5V時の出力飽和
シミュレーション結果:電源電圧5V時の出力飽和

一部に信号の乱れが見られます。しかし、この乱れは、一段目差動増幅回路の飽和によるものと思われます。実使用で出力を飽和させることはありませんので、これについての対策は不要と判断しました。

次に、電源電圧14V時の出力飽和をシミュレーションしてみます。

さらに高みを目指す:シミュレーション結果:電源電圧14V時の出力飽和
シミュレーション結果:電源電圧14V時の出力飽和

出力飽和時の振幅は8.6Vです。やはり、信号に乱れが見られます。しかし、前述のとおり、この乱れは、一段目差動増幅回路の飽和によるものと思われます。したがって、実使用では起きえない現象です。したがって、対策は不要であると判断します。

以上のシミュレーション結果から、通常の使用において問題が無いことを確認しました。また、電源電圧による飽和電圧のオフセット増大は見られませんでした。併せて、微小信号時のオフセットは、1mV程度に収まっています。また、周波数特性も、可聴域でフラットであることが、シミュレーションにより確認できました。

さらに高みを目指す:PCBの設計

ユニバーサル基板を使って、回路を組むこともできます。しかし、組み立ての容易さ、特性の良さ、見た目の美しさ等を考慮し、PCBを起こすことにしました。これまでどおり、EasyEDAを使って設計します。

先ずは、EasyEDAで回路図を書いていきます。

EasyEDAでPCBを設計する:ステップ1回路図を書く
ステップ1:回路図を書く

この後が最難関と言っても良い、部品の配置です。絡まったラットラインをほぐすように、部品の向きと配置を決めていきます。

絡まったラットラインを参考に部品を配置する
ステップ2:絡まったラットラインを参考に部品を配置する

EasyEDAのPro版には、部品配置を自動で行う機能があります。しかし、部品や入出力パッドなどの配置が美しくないので、私は使いません。しかし、配線を自動で行う、Auto Route機能は、手直しを前提に、積極的に使います。

部品の配置、配線、パッド配置、シルク書き込み等を終えたら、仕上がりイメージの確認です。

PCB仕上がりイメージ
PCB仕上がりイメージ
部品実装イメージ
部品実装イメージ

組み立て時の部品の干渉については、3Dイメージでしっかり確認しておくと良いでしょう。

ここまで出来たら、ガーバーデータを生成し、JLCPCBに送ります。オーダーから一週間ほどで、さらに高みを目指すPCBがおくられてきます。

新設計を行ってみて

実は、カレントラーを使用した、差動増幅回路の定電流駆動は、過去にも行っていました。しかし、当時は出力オフセットや省電力化など、どちらかというと静特性を重視した設計を行っていました。そのため、電源電圧の変動に弱かったり、位相回転への考慮が足りず、ステップ応答が良くありませんでした。つまり、定電流動作の強みを十分に生かした設計ができていませんでした。

しかし、ここ最近は、スルーレートやステップ応答試験での、波形の乱れを意識するようになりました。その結果、以前よりも差動増幅回路の定電流駆動による恩恵が大きくなりました。シミュレーションの結果でも、電源電圧の変動による、出力オフセットが抑えられていることを確認しました。

その他、差動増幅回路に、積極的に電力を供給する設計としました。これにより、高いスルーレートが得られるはずです。その一方で、位相マージンも大きく取れていることが解りました。これにより、高スルーレートでありながら、発振しにくい回路とすることに成功しました。

さらに高みを目指す設計により、かなり素性の良いヘッドホンアンプが出来上がると思われます。

PCBが出来上がり次第、新しいヘッドホンアンプを組み立てようと思います。