47という数字が浮かびました:セミカレミラ修正
47という数字が浮かびました。
先日作った、セミカレミラ・ヘッドホンアンプは発振が起きて、失敗となりました。気分転換にオシロスコープキットキットを組み立てていたら、47という数字が浮かんできました。そこで、セミカレミラ・ヘッドホンアンプに47を取り入れて設計し直してみました。
47という数字は実績のある数字です
実は、以前も47という数字に救われています。以前、一段目差動増幅回路の負荷抵抗を10kΩにして失敗しました。その時、負荷抵抗を47kΩにすることで、リカバリーしました。そして、性能としては中庸ですが、安定したアンプが出来上がりました。今回も、一段目差動増幅回路の負荷抵抗を47kΩにして、安定志向の設計を行います。
47という数字が浮かんできたので、これを取り入れた設計にしました。その結果、安定志向の設計となったはずです。なお、二段目差動増幅回路のエミッタ抵抗も470Ωから1kΩに変更しました。しかし、電源回路、ダイアモンドバッファの変更は必要ありませんので、そのままです。
47という数字を取り入れて設計した回路をシミュレーション
前回は、シミュレーションの範囲が狭かったことも失敗の要因でした。そこで、今回は位相シミュレーションの範囲を1Hz~20MHzに広げました。
シミュレーションの結果、利得ピークと180°位相となる周波数は、2.5MHz離れています。また、利得ピーク時の位相回転は93°で、位相余裕は87°確保できています。対数グラフですから、利得ピークと位相回転180°のポイントは近く見えます。しかし、実際にはかなり離れています。したがって、発振の可能性は低いと考えられます。
実際に、出力が飽和した状態でも、発振が起きないことを確認しました。
シミュレーションの結果、出力飽和時のP-P電圧は5.4Vでした。出力飽和状態で使用することはありませんが、この状態でも発振は起きないようです。
つぎに、高調波成分を含んだ矩形波を入力した場合のシミュレーションも行ってみました。
100mV矩形波を入力した場合のシミュレーションの結果も優秀です。
歪みとノイズをシミュレーション
1mW出力時のノイズと歪みをシミュレーションしてみます。
1mW出力時のFFTを出してみました。フロアノイズは-167dBで、S/N比は130dBです。LTSpiceの特性で、奇数次高調波が高めに出ています。しかし、二次の高調波歪みは-120dB程に抑えられています。
以上が、シミュレーションの結果です。前回の失敗を踏まえて、シミュレーションを入念に行いました。その結果、素性の良いヘッドホンアンプが出来そうな予感がします。
セミカレミラ・ヘッドホンアンプの修正と性能測定
今回は、組み立てというより、手直しです。8本の抵抗器を取り換えれば作業は終わりです。手直しが完了したヘッドホンアンプがコレです。
小さな基板に、ギチギチに部品を詰め込んだ、密度感たっぷりの回路がたまらなく好きです。上記写真の、左上から右下に向けて、一段目差動増幅回路、二段目カレミラ負荷差動増幅回路・・・。そして、ダイアモンドバッファ、プッシュプル回路の順で並んでいます。信号は、左上から右下に向かって流れます。
なお、一段目差動増幅回路と二段目差動増幅回路の間に、スペースが開いています。このスペースは、二つの差動増幅回路に給電するパターンのためのスペースです。ダイアモンドバッファとプッシュプル回路には、右下のスペースに引かれたパターンから給電されています。
ケースへの格納状態はこんな感じです。
47という数字を取り入れた結果確認-性能測定:出力飽和電圧
先ずは、出力飽和電圧(P-P:ピークトゥピーク)を測定します。
飽和出力電圧は、P-Pで8.3Vでした。この値は、LTSpiceでのシミュレーション結果、5.4Vより高い値です。理由は分かりませんが、飽和電圧はシミュレーションの結果と乖離があります。
性能測定:無信号時オフセット電圧
無信号時オフセット電圧が大きいと、電源投入時のポップノイズが大きくなり、不快です。また、極端に大きい場合は、接続したヘッドホンを破壊する可能性も出てきます。
無信号時オフセット電圧は、温度によっても変化します。したがって、過剰に気にする必要はありません。100mV以下であれば、問題は無いでしょう。
測定結果は、左右とも1mV以下でした。非常に優秀だと思います。
性能測定:正弦波増幅
正弦波を入力し、増幅後の波形を観察します。
1Hzから20kHzまで、綺麗な波形が出ています。歪や、ノイズは見られえません。また、Vavgの値は常に0となっています。これは、有信号時の出力オフセットが無いことを表しています。とても良い結果が出ています。
性能測定:矩形波増幅
矩形波は、多くの高調波を含んでいます。そのため、高周波特性が悪ければ、波形が鈍くなります。また、歪みが多ければ、オーバーシュートやリンギングとして、出力波形に現れます。
1kHzで、わずかにオーバーシュートが出ています。また、20kHzでは、+側に非常に細い線状のオーバーシュートが出ています。その一方で、マイナス側は、角が丸まっています。
何れも、聴感への影響は無いと思います。
性能測定:リニアリティー
三角波と階段波の増幅を行い、増幅後の波形を観察することでリニアリティー(直線性)を確認します。電圧レベルによって、増幅率が一定でない場合、三角波の波形は歪みます。また、階段波では、各段の段差が揃いません。
三角波、階段波共に、綺麗に再現されています。したがって、リニアリティーは確保できています。
性能測定:スルーレート
今回は、一段目差動増幅回路の負荷抵抗を10kΩから47kΩに変更しました。その結果、トランジスタに供給される電力が少なくなっています。電力の減少により、トランジスタの応答速度は低下します。そのため、スルーレートは低下するはずです。しかし、低下したとしても、オーディオ信号の増幅ならば1V/μSもあれば十分です。
測定の結果、117nSあたり3.92Vの変化でした。これを1マイクロ秒あたりに換算すると、33.5V/μSとなります。これは、かなり優秀です。しかし、スルーレートが高いと、発振しやすくなります。したがって、スルーレートは程々がいいようです。例えば、オーディオ用オペアンプNE5532のスルーレートは6V/μSです。また、音質の評価が高い、OPA2134は20V/μSです。
前回の失敗も、闇雲に高いスルーレートを求めた結果です。したがって、今回修正を施したヘッドホンアンプは、オーディオ用として、やや過剰な性能がえられたと思います。
47という数字を取り入れたヘッドホンアンプの音質は?
性能測定の結果からもわかる通り、周波数特性はフラットです。また、電力増幅トランジスタのエミッタ端子は、出力端子に直結されています。もちろん、ヘッドホンジャックの接触抵抗や、配線の抵抗はあります。しかし、その抵抗値は無視できるほど小さいです。そのため、ダンピングファクターは、極めて高くなっています。その結果、接続されたヘッドホンの振動版は、アンプによって強力に制御されます。
実際にヘッドホンから出てくる音は、ガチガチに締まった音です。豊かな表現力はありませんし、艶やかな響きを加えることもありません。ただひたすらに、入力信号を増幅するだけです。
アンプに表現力を求める方には、このアンプはゴミでしかありません。しかし、入力に何も足さず、一切の取りこぼしも無く、忠実に増幅するアンプを求めているなら最適です。