フルカレミラ・ヘッドホンアンプに挑戦(設計編)

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フルカレミラ・ヘッドホンアンプに挑戦します。前回は、二つある差動増幅回路のうち、二段目だけをカレントミラー負荷にしていました。いわゆる、セミカレミラでした。しかし、今回は、全ての差動増幅回路を、カレントミラー負荷にした、フルカレミラに挑戦します。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプは難易度高めです

カレントミラー負荷にすることで、差動増幅回路の増幅率を大きくできます。しかし、カレントミラー負荷の差動増幅回路には、欠点もあります。それは、カレントミラー負荷にすると、位相遅れが大きくなることです。前回作成したヘッドホンアンプは、二つの差動増幅回路のうち、一つだけをカレントミラー負荷にしました。これにより、位相補償無しに、ヘッドホンアンプとして成立するギリギリを狙いました。

全ての差動増幅回路を、カレントミラー負荷にするためには、どうしても位相補償が必要です。帰還信号の位相遅れが180°になると、負帰還が正帰還となり、発振してしまいます。そこで、帰還信号の位相を進めることで、発振を防止する必要があります。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプの利点

差動増幅回路には沢山の利点があります。同相除去比が高く、電源から回り込むノイズを除去できます。また、直流信号の増幅もできます。さらに、負帰還量で増幅率が決まります。そのため、電源電圧が変動しても増幅率は変わりませんし、増幅率の設定も容易です。その他、アンプ内部で発生する歪みを、負帰還によって除去できます。

これらの利点は、差動増幅回路のオープンループゲインが高いほど顕著になります。つまり、差動増幅回路のオープンループゲインが高いほど、使いやすいアンプになります。フルカレミラ化で、オープンループゲインを上げ、素性の良いアンプを作るのが今回の目的です。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプを設計する

これまでは、信号経路にコンデンサーを使わない設計に拘っていました。しかし、フルカレミラでは、差動増幅回路での遺贈遅れが大きくなってしまいます。そのため、進相コンデンサーを負帰還回路に入れないと、アンプとして成立しません。信号経路にコンデンサーを入れるのは不本意です。しかし、これは仕方がありません。

シミュレーションを繰り返し、出来上がった回路がコレです。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ回路図

二つの差動増幅回路ともに、カレントミラー負荷にしました。また、これまでと同様、一段目差動増幅回路と二段目差動増幅回路は逆極性にしてあります。これにより、一段目差動増幅回路の非線形性を二段目で打ち消す構成としています。

二つの差動増幅回路で電圧増幅を行った後は、ダイアモンドバッファでインピーダンスを下げます。併せて、ボルテージシフトを行い、プッシュプル電力増幅段をA-B級動作させています。

位相補償のために、帰還抵抗Rfと並列に、15pFの進相コンデンサーを設置しています。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプのシミュレーション結果

設計が出来上がったら、LTSpiceでのシミュレーションを行います。先ずは、アンプの素性の良さを見極めるため、オープンループゲインをシミュレーションをします。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ オープンループゲインシ(P-P200μV入力)
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ オープンループゲインシ(P-P200μV入力)
フルカレミラ・ヘッドホンアンプオープンループゲイン(出力振幅計測)
フルカレミラ・ヘッドホンアンプオープンループゲイン(出力振幅計測)

P-P200μV正弦波を入力した時の出力信号をシミュレーションしました。その結果、出力のP-P電圧は3.09Vでした。増幅倍率は15,480倍で、デシベル換算で83.7dBでした。これまでにない高利得アンプとなりました。

次に、正弦波1mW(RMS)出力時の波形とFFTをシミュレーションしてみました。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ1kHz正弦波1mW出力時出力波形
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ1kHz正弦波1mW出力時出力波形

出力信号は、+側にわずかにオフセットしています。しかし、波形に乱れはありません。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ1mW出力時FFT
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ1mW出力時FFT

ノイズは-140dB~-170dBで、低いレベルに納まっています。S/Nは120dB程度確保できています。シミュレーションに使用したLTSpiceの特性により、奇数次高調波歪みが大きく出ています。しかし、二次の高調波歪みは、0.07%程度で、かなり低いレベルに抑えられています。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプは発振しやすいのか?

アンプの大敵は発振です。今回設計したフルカレミラ・ヘッドホンアンプの発振しやすさを、シミュレーションで探ってみます。先ずは、周波数特性と位相回転のシミュレーション結果を見てみましょう。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ周波数特性・位相回転
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ周波数特性・位相回転
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ周波数特性・位相回転(主要数値)
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ周波数特性・位相回転(主要数値)

利得がピークとなる周波数は912kHzでした。この時の位相は-126°で、位相余裕は60°未満です。したがって、かなり発振しやすい状態です。また、位相180°時の利得は19.3dBもあり、これもあまりよくありません。利得ピーク周波数と、位相180°周波数の差は126kHzで、それなりに離れてはいますが、若干心配です。

次に、出力飽和時の波形を見てみましょう。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ出力飽和状態の波形
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ出力飽和状態の波形

出力飽和時、P-P電圧5Vでクリップ(出力の頭打ち)が生じます。やはり、波形に一部乱れが生じています。恐らく、これは短期間ですが発振が起きていると思われます。

矩形波増幅のシミュレーション

次に、高調波成分を多く含んだ、矩形波の増幅をシミュレーションしてみます。

P-P200mV矩形波入力時の出力波形
P-P200mV矩形波入力時の出力波形

P-P200mVの矩形波を入力した時のシミュレーションをしてみました。出力波形に、わずかではありますが、オーバーシュートが見られます。しかし、発振に発展するほど強い乱れではありません。

発振を抑える方法は、位相補償以外の方法もあります。しかし、今回は、シンプルな位相補償のみにしたいと思います。

以前、電気喰いすぎで失敗しましたので、無信号時の消費電流も、シミュレーションしてみました。

無信号時消費電流
無信号時消費電流

無信号時時の消費電流は10mA程です。しかし、この値は1チャンネル分です。ステレオ2チャンネル分で、17mA程度になるでしょう。この程度なら、乾電池でも十分賄えるでしょう。

PCBを起こす

今回も、専用基板を発注します。いつものように、EasyEDAという無料のPCB設計アプリを使用します。以前は、ユニバーサル基板を使って、組み立てていました。しかし、仕上がりの良さや、組み立てのしやすさを考慮すると、専用基板に軍配が上がります。

先ずは、回路図を作成します。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプPCB製作用回路図
フルカレミラ・ヘッドホンアンプPCB製作用回路図

回路図の作成が終わったら、部品配置を決め、配線パターンを引き、シルクを書き込んでいきます。特に、配線パターンを引くのは面倒な作業です。しかし、EasyEDAには、自動で配線を行う機能も用意されていますので、活用すると良いでしょう。しかし、PADへの配線など、自動ではできない部分もあります。したがって、ある程度は手作業が必要です。

PCBイメージ
フルカレミラ・ヘッドホンアンプPCBイメージ

PCBイメージが出来上がったら、3Dイメージで、部品実装に無理が無いかを確認しておくと良いでしょう。

3Dイメージ
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ3Dイメージ

後は、基板屋さんにガーバーデータを送れば、数日後に出来上がったPCBが送られてきます。