フルカレミラ・ヘッドホンアンプ 組み立て編
![](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241207_173416882.jpg?fit=1440%2C1080&ssl=1)
フルカレミラ・ヘッドホンアンプを組み立てます。設計とPCBの発注まで済ませておいた、フルカレミラ・ヘッドホンアンプを組み立てます。しかし、このアンプには、懸念事項もあります。それは、発振です。
シミュレーション上は、出力クリップ時に発振が見られました。しかし、クリップしなければ発振は起きないという結果を得ています。さて、本当に発振は起きないのでしょうか。
フルカレミラ・ヘッドホンアンプのPCB完成
EasyEDAを使用して設計し、製造を発注しておいたPCBが出来上がってきました。
![フルカレミラ・ヘッドホンアンプPCB](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241207_142956693.jpg?resize=644%2C483&ssl=1)
今回も、トランジスタを千鳥配置しました。これにより、部品の実装密度を上げています。組み立ての難易度は上がります。しかし、密度感のある基板の見た目が好きなので、好んで高密度実装をしています。
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ組み立て
PCBに部品を植えて、はんだ付けをしていきます。一般的には、背の低い部品から順に実装します。しかし、私の場合は、トランジスタを実装する際に治具を使用します。これにより、トランジスタの高さを揃えています。その際に、治具が入り込むスペースを確保するために、トランジスタ以外の部品を後回しにしています。
![フルカレミラ・ヘッドホンアンプ トランジスタの実装完了](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241207_160729109.jpg?resize=644%2C483&ssl=1)
トランジスタの実装が終わったら、他の部品も実装していきます。
![部品実装が終わったフルカレミラ・ヘッドホンアンプ](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241207_173449076.jpg?resize=644%2C483&ssl=1)
PCBへの部品実装が終わったら、外付け部品を取り付けていきます。
![外付け部品の取り付けが終わったフルカレミラ・ヘッドホンアンプ](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241208_113641042.jpg?resize=644%2C483&ssl=1)
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ性能測定
組み立てが終わったので、性能測定を行います。しかし、残念なことに、恐れていた発振が生じていました。ただし、この発振は、出力信号が1.5V(P-P)を超えると発生します。そのため、今回は出力電圧を何時もより低めに設定して性能測定を行いました。
![フルカレミラ・ヘッドホンアンプの発振](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/%E7%99%BA%E6%8C%AF%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0.png?resize=644%2C386&ssl=1)
この発振は、持続性がありません。また、発振周波数は344kHzで、可聴域を大きく超えています。したがって、聴感への影響は無いはずです。
性能測定:出力クリップ、正弦波
先ずは、過大信号を入力し、出力クリップ時の電圧を確認します。
![フルカレミラ・ヘッドホンアンプ 出力クリップ](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/%E5%87%BA%E5%8A%9B%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97.png?resize=644%2C386&ssl=1)
クリップ時の振幅は、6.81Vでした。しかし、+側に1V程度オフセットしています。したがって、実用となる最大出力振幅は5V程度です。次に、正弦波増幅時の出力波形を見てみましょう。
![1Hz正弦波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/1Hz%E6%AD%A3%E5%BC%A6%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
![1kHz正弦波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/1kHz%E6%AD%A3%E5%BC%A6%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
![20kHz正弦波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/20kHz%E6%AD%A3%E5%BC%A6%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
発振が起きない範囲であれば、出力波形はとてもきれいです。出力振幅が1Vあれば、インピーダンス20Ωのヘッドホンならば25mWの出力が得られます。ヘッドホンの能率にもよりますが、25mWあれば、結構大きな音が出ると思います。
性能測定:矩形波
正弦波と異なり、矩形波は高調波成分を多く含んでいます。そのため、発振しやすいアンプは矩形波の増幅が苦手です。フルカレミラ・ヘッドホンアンプの出力波形が、どの程度乱れるか、確認してみましょう。
![1Hz矩形波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/1Hz%E7%9F%A9%E5%BD%A2%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
![1kHz矩形波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/1kHz%E7%9F%A9%E5%BD%A2%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
![20kHz矩形波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/20kHz%E7%9F%A9%E5%BD%A2%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
1kHzで小さなオーバーシュートに見えた部分が、20kHzではリンギングとして現れました。しかし、幸いなことに、この発振には持続性がありません。また、発振周波数は高く、聴感への影響は無いと思われます。
性能測定:スルーレート
信号追従性の指標であるスルーレートを測定してみました。オーディオ用であれば、1V/μSでも十分すぎる値です。しかし、極端に低くなれば、周波数の高い信号を増幅することが難しくなります。その一方で、極端に高い場合は、発振しやすくなり、取り扱いの難しいアンプとなります。
![フルカレミラ・ヘッドホンアンプのスルーレート](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/slewrate.png?resize=644%2C386&ssl=1)
測定の結果、340nSで1.24Vの電圧変化でした。これをマイクロ秒あたりに換算すると、3.6V/μSです。この値は、オーディオ用としては十分な値です。しかし、これまで作ってきたスルーレート重視のヘッドホンアンプと比較すると、かなり低い値です。スルーレートを低めた原因は二つです。一つは、差動増幅回路のインピーダンスが高いこと。そして、もう一つは、発振防止のために入れた、進相コンデンサです。
今愛の発振の傾向を見ると、スナバを出力端に入れた方が良かったかも知れません。
性能測定:リニアリティー
三角波と歓談波を増幅し、入力電位による増幅率の変化を確認します。入力電位によって、増幅率が変動する場合、三角波では波形を構成する線に歪みが出ます。また、階段波では、各段の段差が一定ではなくなります。
![三角波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/%E4%B8%89%E8%A7%92%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
![階段波](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/%E9%9A%8E%E6%AE%B5%E6%B3%A2.png?resize=644%2C386&ssl=1)
階段波で、各段にオーバーシュートが見られます。しかし、段差は一定です。三角波の方には、歪みは見られません。したがって、リニアリティーは確保できていると言えます。
性能測定:無信号時出力オフセット
出力オフセットは、電源投入時に発生するポップノイズの原因になします。また、オフセットが極端に大きい場合、接続したイヤホンやヘッドホンを破壊してしまう可能性があります。目安として、オフセットが100mV未満であれば、許容範囲と言えるでしょう。
![左チャンネル 無信号時出力オフセット](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/%E5%B7%A6%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB%E7%84%A1%E4%BF%A1%E5%8F%B7%E6%99%82%E5%87%BA%E5%8A%9B%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%88.png?resize=320%2C240&ssl=1)
![右チャンネル 無信号時出力オフセット](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/%E5%8F%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB%E7%84%A1%E4%BF%A1%E5%8F%B7%E6%99%82%E5%87%BA%E5%8A%9B%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%88.png?resize=320%2C240&ssl=1)
左右チャンネルともに、一桁ミリボルトでした。したがって、接続したヘッドホンに悪影響を与えることは無いでしょう。なお、今回のフルカレミラ・ヘッドホンアンプ組み立てにあたっては、トランジスタの選定を行いました。一段目差動増幅回路に使用するトランジスタのVbeを揃えました。また、カレントミラーを構成するトランジスタのVbeも揃えました。Vbeを揃えることにより、オフセットを低く抑えることができます。
フルカレミラ・ヘッドホンアンプを実際に使ってみる
基板むき出しでは使いにくいので、ケースに収めました。
![ケースに収まったフルカレミラ・ヘッドホンアンプ](https://i0.wp.com/pooq.biz/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241208_155356126.jpg?resize=644%2C483&ssl=1)
性能測定の結果からも推察されるとおり、入力信号を忠実に増幅するヘッドホンアンプです。しかし、入力信号が大きくなると発振します。この発振は、持続性はありません。また、発振は可聴域を大きく超えた、300kHz以上の周波数です。さらに、発振の振幅は、大きくありません。したがって、聴感への影響はありません。
実際に音楽ソースに接続して聴いてみても、発振していることを感じることはありませんでした。実際に、音質だけに注目するならば、フルカレミラの良さはありません。しかし、音質以外に、フルカレミラには大きな利点があります。それは低電圧に強いということです。今回、組み立てたヘッドホンアンプは、電源電圧9Vで設計しました。しかし、実際に使用してみると、2.5Vでも実用的な出力が得られました。つまり、単三電池二本で動作させることもできます。ちなみに3V動作させたときの、無信号時電流は、たった4mAでした。つまり、消費電力は12mWです。