フルカレミラ・リカバリ 設計・手直し・PCB設計

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フルカレミラ・リカバリを行います。先日作ったフルカレミラ・ヘッドホンアンプは完ぺきではありませんでした。実用的な領域では、問題はありませんでした。しかし、出力振幅が一定以上になると、出力信号に乱れが生じました。今回は、この問題を解決します。

フルカレミラ・リカバリのポイント

前回作った、フルカレミラ・ヘッドホンアンプには二つの問題点がありました。この問題点は、利得・位相回転線図を見れば明らかです。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ 利得・位相回転線図
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ 利得・位相回転線図

問題点の一つ目は、900kHzあたりで生じる、利得の急激な変化です。これは、進相コンデンサの容量不足が原因です。スルーレート低下と高周波特性の鈍化を恐れ、進相コンデンサを小さくし過ぎました。

二つの目の問題点は、位相の急激な変化です。これについては、可聴域を超える信号をカットすることで対応したいと思います。しかし、これらの対策は、アンプの周波数特性を悪くします。したがって、やりすぎは禁物です。

フルカレミラ・リカバリ案

フルカレミラ・ヘッドホンアンプの問題点は判りましたので、対処をしていきます。

対処1、進相コンデンサを大きくする

対処2,高周波成分を減衰させるデカップリングコンデンサを設置する

以上の対策を施した回路図がコレです。

フルカレミラ・リカバリ 回路図
フルカレミラ・リカバリ 回路図

進相コンデンサは、15pFから68pFに大胆に大きくしました。また、一段目差動増幅回路の非反転出力と、反転出力の間にデカップリングコンデンサを設置しました。これらの対策で、あえて高周波特性を悪くしました。

フルカレミラ・リカバリのシミュレーション

発振を抑えるために大胆な対策をしました。何れも、私の嫌いなコンデンサを信号経路に入れます。しかし、発振を抑えるには仕方がありません。

シミュレーションを行い、効果を確認します。先ずは、周波数特性と位相回転をシミュレーションします。

フルカレミラ・リカバリ 周波数特性・位相回転シミュレーション結果

利得の急峻な変化はかなり抑えられています。また、位相の変化も緩やかになっています。

フルカレミラ・リカバリ 利得ピーク周波数、位相逆転周波数

利得ピーク周波数は49kHzでした。また、位相が逆転する周波数は425kHzで、利得ピーク周波数とは十分離れています。さらに、位相逆転時の利得は、ピーク利得より20dB低くなっています。十分に低い利得ですので、発振の危険性はありません。利得ピーク時の、位相余裕も150°確保できています。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ実機で効果を確認する

シミュレーションでは、デカップリングコンデンサ2.2nF、進相コンデンサ68pFが適当でした。しかし、発振については、シミュレーションどおりの結果にならないことがあります。そこで、フルカレミラ・ヘッドホンアンプの実機を使って最適値を探ることにしました。

フルカレミラ・ヘッドホンアンプ実機を使って最適値を見つける
フルカレミラ・ヘッドホンアンプ実機を使って最適値を見つける

実際に試してみた結果、シミュレーションどおり、発振は収まりました。しかし、波形が大きく歪んでしまいました。そこで、コンデンサの値を少しずつ変えながら、最適値を探すことにしました。

最適と思われる回路

手間のかかる作業でしたが、何とか最適値と思われる値にたどり着くことができました。その結果を反映した回路図がコレです。

フルカレミラ・リカバリ 現物合わせ
フルカレミラ・リカバリ 現物合わせ

やはり、LTSpiceのシミュレーション結果を元に割り出したコンデンサの容量は過剰でした。試行錯誤の結果、割り出した最適値は、進相コンデンサ33pF、デカップリングコンデンサ100pFでした。

実機の改造

今回は、最低限の手当ということで、既存回路の手直しに止めました。

フルカレミラ・リカバリ デカップリングコンデンサの追加
フルカレミラ・リカバリ デカップリングコンデンサの追加

本来であれば、非反転出力とグランドの間にデカップリングコンデンサを設置すべきです。しかし、今回の回路では、差動増幅回路の非反転出力と反転出力の間にコンデンサを設置しました。反転出力端子は、カレントミラーのソースになっています。そのため、理論上は振幅しません。そのため、グランドと同様の効果が得られると考えたからです。また、非反転出力と反転出力の位相差吸収効果も狙いました。

フルカレミラ・リカバリの効果確認

改造が終わりましたので、効果確認を行いました。いつものように試験信号を入力し、増幅後の波形を確認します。

1Hz正弦波
1Hz正弦波
1kHz正弦波
1kHz正弦波
20kHz正弦波
20kHz正弦波

改造前は、出力振幅が1.5Vを超えると、発振により波形が乱れていました。しかし、改造後は、出力振幅が2.5Vでも波形は乱れませんでした。

1Hz矩形波
1Hz矩形波
1kHz矩形波
1kHz矩形波
20kHz矩形波
20kHz矩形波

矩形波の方は、1kHzで、マイナス側にオーバーシュートが見られます。また、20kHzでは、プラス側に僅かなリンギングが見られます。その一方で、マイナス側は波形が大きく乱れています。

今回の改良では、差動増幅回路のエミッタ抵抗を変更していません。そのために、プラス側とマイナス側で挙動が異なったと思われます。恐らく、差動増幅回路のエミッタ抵抗を小さくすることで、この不均衡は解消できると思います。

フルカレミラ・リカバリ スルーレート、リニアリティ

今回は、進相コンデンサの容量アップとデカップリングコンデンサの設置を行いました。これらの措置は、高周波特性を抑制することで、発振を抑えています。そのため、スルーレートの低下が予想されます。

フルカレミラ・リカバリ スルーレート
フルカレミラ・リカバリ スルーレート

測定の結果は、780nSで1.59Vの電圧変化でした。これを、マイクロ秒あたり変化量に換算すると、2V/μSとなります。改良前は、3.6V/μSでしたので、スルーレートは悪くなっています。しかし、悪くなったといっても、オーディオ用としては十分な値です。

三角波と階段波を使って、リニアリティーの確認も行いました。

三角波
三角波
階段波
階段波

階段波で、マイナス側にオーバーシュートが出ていることを除いて問題はなさそうです。

フルカレミラ・リカバリのPCBを発注する

当初予想していたとおり、二つの差動増幅回路の両方をカレントミラー負荷にするのは難しかったです。しかし、進相コンデンサに加えて、デカップリングコンデンサを設置することで対処できました。今回の改良では、完ぺきとは言えません。しかし、エミッタ抵抗を調整すれば、かなり良くなると思われます。

そこで、新たにPCBを起こして、改良版フルカレミラ・ヘッドホンアンプを作ります。新しいPCBはこんな感じです。

新フルカレミラ・ヘッドホンアンプPCB
新フルカレミラ・ヘッドホンアンプPCB

部品は2つ増えました。しかし、部品のギチギチ実装を更に進め、基板サイズは小さくなっています。