信念を曲げて作ったヘッドホンアンプ:フルカレミラ挫折

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信念を曲げて作ったヘッドホンアンプです。結論から申し上げるなら、これは失敗でした。これまで、信号経路にコンデンサを入れない設計を心がけてきました。しかし、フルカレミラ・ヘッドホンアンプでは、発振を抑えるためのコンデンサは不可欠です。仕方なく、信号経路にコンデンサを入れた設計にしました。今回は。前回設計したフルカレミラ・ヘッドホンアンプを組み立て、その性能を確認します。

信念を曲げなければいけなかった理由

アンプの信号経路にコンデンサを入れると、出力波形が歪むと信じていました。そして、信号経路にコンデンサを入れないことで、入力波形を乱すことなく増幅できると考えていました。しかし、カレントミラー負荷の差動増幅回路を二段通すと、発振が起きます。恐らく、差動増幅回路での信号遅延が発振の原因でしょう。実際に、負帰還回路に進相コンデンサを入れることで、ある程度発振は抑えられます。

しかし、前回制作したヘッドホンアンプでは、進相コンデンサだけで発振を抑えることはできませんでした。

したがって、信号経路にコンデンサを入れざるを得ませんでした。信念を曲げることになりますが、他に方法はありません。

信念を更に曲げる

二段の差動増幅回路すべてをカレントミラー負荷にした、フルカレミラ・ヘッドホンアンプを作りました。しかし、出力振幅が大きくなると、発振が生じました。そこで、一段目差動増幅回路と二段目差動増幅回路の間に、デカップリング・コンデンサを入れました。このコンデンサにより、高周波成分を減衰させ、発振を抑えることにしました。

信念を曲げた設計

デカップリング・コンデンサの設置を前提に、設計をしました。その設計を元に、新たにPCBも起こしました。

信念を曲げた回路図
信念を曲げた回路図
信念を曲げて出来上がったPCB
信念を曲げて出来上がったPCB

このPCBに部品を植えていきます。

信念を曲げたヘッドホンアンプ組み立て

シミュレーション上は、完ぺきなヘッドホンアンプができると信じて組み立てを行いました。しかし、設計に通りにはいきませんでした。

信念を曲げたヘッドホンアンプ:組み立てが終わったヘッドホンアンプ
組み立てが終わったヘッドホンアンプ

設計変更

組み立ては終わりました。しかし、出力振幅が大きくなると、発振しました。そこで、設計変更をを行いました。

信念を曲げたヘッドホンアンプ 一部手直し
信念を曲げたヘッドホンアンプ 一部手直し

一段目差動増幅回路で生じた発振を減衰させるため、デカップリング・コンデンサを大きくしました。100pFから、470pFに変更することにより、減衰周波数を下げました。

信念を曲げたヘッドホンアンプの性能測定

出来上がったフルカレミラ・ヘッドホンアンプの性能測定を行いました。測定は、試験信号を入力し、増幅後の波形を観察することで行いました。

性能測定:正弦波

信念を曲げたヘッドホンアンプ:1Hz正弦波
1Hz正弦波
1kHz正弦波
1kHz正弦波
20kHz正弦波

正弦波は何れも綺麗に再現されています。また、信号のオフセットもありません。見事です。

性能測定:矩形波

1Hz矩形波
1Hz矩形波
1hHz矩形波
1hHz矩形波
20kHz矩形波
20kHz矩形波

矩形波については、1kHzでオーバーシュートが見られる以外、乱れはありません。しかし、20kHzでは、マイナス側の波形が大きく乱れています。聴感上の影響は無いと思います。しかし、これだけ大きく乱れた波形を見ると、このアンプは失敗作と言わざるを得ません。

性能測定:出力信号レール幅

過大信号を入力し、出力クリップ時の電圧幅(レール幅)を測定しました。

レール幅
レール幅

電源電圧±4.5Vに対し、8.25V(P-P)の出力が得られました。電源電圧との差は0.75Vです。したがって、低電圧での動作も可能で、実際に試してみると、電源電圧2.5V(±1.25V)でも動作します。つまり、単三電池2本でも動作させることができます。

性能測定:スルーレート

スルーレート

測定の結果は、1.4μSあたり3.01Vの電圧変化でした。これを1マイクロ秒あたりに換算すると、2.1V/μSとなります。これは、音声信号増幅用としては、十分な値です。しかし、これまで作ってきたヘッドホンアンプの中では、平凡な数値です。

性能測定:無信号時出力オフセット

無信号時出力オフセット(左チャンネル)
無信号時出力オフセット(左チャンネル)
無信号時出力オフセット(右チャンネル)
無信号時出力オフセット(右チャンネル)

出力オフセットはかなり優秀です。これは、使用するトランジスタのVbeを揃えたことも要因の一つだと思います。トランジスタの選定は、手間のかかる作業です。しかし、この辺りを丁寧に行うと、良い結果が得られます。

信念を曲げた結果

信念を曲げて、信号経路にコンデンサを入れたヘッドホンアンプを作りました。低電圧での動作については、利点です。しかし、出力波形はお世辞にも綺麗とは言えません。

しかし、実際に聴いてみると、波形の乱れによる、音の濁りは気になりません。ブラインドテストで、乱れの有無を言い当てることは不可能と思えるレベルです。

しかし、スルーレート等は、信号経路にコンデンサを入れない回路の方が優秀です。また、出力波形については、以前制作した、セミカレミラヘッドホンアンプの方が綺麗です。

ということで、フルカレミラ・ヘッドホンアンプは一旦封印します。そして、セミカレミラ・ヘッドホンアンプのリファインを行ってみようと思います。

しかし、動作速度の速いJFETを使用すれば、フルカレミラの欠点を補えるかもしれません。JFETを使ったヘッドホンアンプも考えてみようと思います。しかし、JFETはBJTよりも高価で、入手性が悪いのが玉に瑕です。

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