セミカレミラ・ブレークスルー(設計編)

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セミカレミラ・ブレークスルーに挑戦します。以前制作した、セミカレミラ・ヘッドホンアンプは、十分な性能でした。また、音質も満足いく出来でした。しかし、安定性の面で懸念事項もありました。今回は、安定性の向上と、わずかですが性能アップも行います。

セミカレミラ・ブレークスルーの目的

以前制作した、セミカレミラ・ヘッドホンアンプで、気になる点がありました。それは、利得の急激な変化です。

セミカレミラ・ヘッドホンアンプの利得変化
セミカレミラ・ヘッドホンアンプの利得変化

上の図は、前回作成したセミカレミラ・ヘッドホンアンプの利得と位相のシミュレーション結果です。6MHz前後で、利得が急激に上昇しています。この利得の山と、位相が180°となる周波数が接近しています。これにより、発信しやすい状況となっていました。実際の使用においては、発振はしていません。しかし、温度の変化や電源電圧の変化により、発振が起きる可能性が高いと思われます。

これまでは、発振を抑えるために、一段目差動増幅回路のインピーダンスを高めにしました。しかし、これにより、スルーレートが犠牲となっていました。今回は、利得の山をなだらかにし、位相が180°となる周波数を高くする方法を模索します。そして、可能な範囲で一段目差動増幅回路の低インピーダンスを図り、スルーレートを向上させます

どこを変更すればブレークスルーするのか?

セミカレミラ・ヘッドホンアンプの回路図を見て、どこを変えればブレークスルーできるのかを探します。

ブレークスルー前のセミカレミラ・ヘッドホンアンプ回路図
ブレークスルー前のセミカレミラ・ヘッドホンアンプ回路図

↑が、元となるセミカレミラ・ヘッドホンアンプの回路図です。しかし、変更できる部分は多くありません。変更できるのは、上に示した回路図のRe1,Re2,Rc1,Rc2だけです。それ以外の抵抗値を変更しても、効果はないはずです。

見直し対象の抵抗、Rc1,Rc2は原則として同じ値にしなければなりません。したがって、Re1,”Rc1とRc2″,Re2の三つの値しか変更できません。まずは、三つの抵抗のうち、どれを変えたら利得の山がなだらかになるのかを探します。

シミュレーションを繰り返し最適値を見つける

セミカレミラ・ブレークスルーを図るため、LTSpiceでのシミュレーションを繰り返しました。今回のシミュレーションで変更するのは4つの抵抗値です。そのうち、Re1,Rc1,Rc2の三つの抵抗は、経験上同一の値にするとよい結果になることはわかっています。したがって、最適値を見つけるためのパラメーターは二つに絞り込まれます。

シミュレーションで、利得の山は二段目差動増幅回路のインピーダンスで変化することが分かりました。また、位相が180°となる周波数も二段目差動増幅回路のインピーダンスで変化します。つまり、発信のしやすさは、二段目差動増幅回路のエミッタ抵抗Re2で決まることがわかりました。

その一方で、スルーレートは、一段目差動増幅回路のインピーダンスで変化することがわかりました。

非常識かもしれないけど最適値が見つかりました

シミュレーションの結果を反映した回路図が↓これです。

セミカレミラ・ブレークスルー 回路図
セミカレミラ・ブレークスルー 回路図

この回路図は、LTSpiceでの机上シミュレーションだけで作り上げたものです。したがって、実際には動作しないかももれません。特に気がかりなのは二段目差動増幅回路のエミッタ抵抗Re2です。これまで制作してきたヘッドホンアンプでは、1kΩ以下にしたことはありませんでした。しかし、シミュレーションでは100Ωが最も良い結果となりました。ただ、これまでの経験上、100Ωは低すぎるように感じています。

一段目差動増幅回路については、すべての抵抗値47kΩが最適であることはわかっています。しかし、今回はあえて低めの20kΩにします。これにより、スルーレートが向上するはずです。もっと低い値、例えば10kΩでのシミュレーションも行いました。しかし、それではアンプとして成り立たないという結果となりました。

セミカレミラ・ブレークスルーのシミュレーション結果

今回設計した、セミカレミラ・ブレークスルーのシミュレーション結果を見てみましょう。まずは、周波数特性と位相変化を表すボード線図を見てみましょう。

セミカレミラ・ブレークスルーの周波数特性と位相回転
セミカレミラ・ブレークスルーの周波数特性と位相回転

利得は、200kHzあたりまで、フラットです。そして、周波数の上昇と共に利得は上昇し、10MHzあたりでピークとなります。10MHzを超えると、利得は6dB/Oct.で減衰します。この辺りは、教科書通りの変化といってよいでしょう。

実際に、カーソルを当てて計測した結果を下図に示します。

セミカレミラ・ブレークスルー 利得ピーク周波数・位相反転周波数
セミカレミラ・ブレークスルー 利得ピーク周波数・位相反転周波数

利得のピークは9.9MHzで、位相180°の周波数は21MHzという結果が出ました。

利得ピーク時の位相回転は86°ですので、位相余裕は90°を超えています。また、周波数は11MHz離れています。このことから、位相余裕は十分確保できており、発振は起きないと思われます。また、ピークゲイン24dBに対し、位相180°での利得は8.8dBです。その差は約16dBあり、利得余裕も確保できています。

以上は、シミュレーションの結果で、実機の動作と異なる可能性はあります。

オープンループゲイン

差動増幅アンプについては、負帰還信号を遮断した、オープンループゲインが高いほど高性能です。では、今回設計したセミカレミラ・ブレークスルーのオープンループゲインはどの程度でしょうか。残念ながら、私の持っている機材や環境では、ノイズの影響でオープンループゲインを正しく測れません。

そのため、シミュレーション上のオープンループゲインを測定してみました。

オープンループゲインの測定(0.2mVP-P 1kHz正弦波入力時の出力波形)
オープンループゲインの測定(0.2mVP-P 1kHz正弦波入力時の出力波形)
オープンループゲイン測定結果
オープンループゲイン測定結果

シミュレーションでは、0.2mV(P-P)の信号を入力し、702mV(P-P)のオープンループ出力が得られました。これをデシベル換算すると、70.9dBとなります。これまで作ったアンプの最高は58dBくらいでしたから、かなり向上しています。

オープンループゲインが高いほど、負帰還信号の効きがよくなります。その結果、差動増幅回路の特徴である負帰還信号による歪の除去性能が高くなります。本来は、同相除去性能も高いはずです。しかし、今回のアンプは差動入力ではありませんので、同相除去比を云々することはできません。

セミカレミラ・ブレークスルーのPCB設計

今回設計した、ヘッドホンアンプの回路構成は、これまでのセミカレミラ・ヘッドホンアンプと一緒です。従来のPCBを使用することもできます。しかし、基板サイズをさらに小さくし、部品実装密度を上げるため、新たにPCBを設計しました。

PCBの裏面はこんな感じで、一部はユニバーサル基板並みにスルーホールが並んでいます。

セミカレミラ・ブレークスルー 完成予想イメージ(はんだ面)
セミカレミラ・ブレークスルー 完成予想イメージ(はんだ面)
セミカレミラ・ブレークスルー 完成予想イメージ(部品面)
セミカレミラ・ブレークスルー 完成予想イメージ(部品面)

部品面には、所狭しとパーツが並んでいます。抵抗の実装は、昭和っぽい立て配置です。しかし、こういう高密度実装は大好物です。美しさよりも、作業性よりも、密度感を重視しました。

PCBが出来上がり次第、組み立てたいと思います。