昔作ったClassAAヘッドホンアンプの性能測定

昔作ったClassAAヘッドホンアンプの性能測定をしてみました。そもそもClassAAアンプとは、1980年代にテクニクスのオーディオアンプに採用されていた回路です。そんなClassAA回路を真似て、ヘッドホンアンプを作ったことがありました。当時は、オシロスコープやファンクションジェネレータを持っていませんでした。したがって、性能測定はしていませんでした。たまたま、昔作ったClassAAヘッドホンアンプが出てきましたので、性能測定をしてみました
ClassAA回路はどんな回路?
ClassAA回路は、電圧増幅回路と電力増幅回路(0dBアンプと説明されていたと思います)で構成されています。
二段構成のアンプで、二段目の出力信号を、一段目の反転入力端子に帰還すると、発振することがあります。これは、アンプでの増幅によって、信号が遅れることが原因です。
ClassAA回路は、アンプの出力を電圧増幅回路に帰還します。電力増幅回路は、出力が電圧増幅回路の出力と同一になるよう電力を補う動作します。つまり、信号は電力増幅回路を通過しません。そのため、電力増幅回路による信号遅れは生じません。したがって、信号遅れが原因となる発振は起きません。

電圧増幅回路は電圧増幅だけ、電力増幅回路は電流を補うだけです。つまり、電圧増幅回路からは電流が流出しませんので、負荷はなく、電圧増幅と負帰還処理に徹します。これが、ClassAA回路の巧みなところです。
ClassAA回路を最近見ないのはなぜ?
最近はClassAA回路をあまり見ないように感じます。ここからは想像ですが、ClassAA回路が必要なくなったのではないでしょうか。そもそも、増幅回路による信号の遅延が少なくなれば、ClassAA回路は必要ありません。トランジスタと比較して、動作速度が速いMOSFETを使えば遅延は減ります。ヘッドホンアンプのような小さなアンプであれば、オペアンプ一発で事足りるでしょう。
もちろんディスクリートなら、ある程度遅延のコントロールは可能です。
そもそも、世の中はデジタル一色です。デジタルアンプなら、変調かけてローパスフィルタ通すだけです。中には、ローパスフィルタ無しのデジタルアンプもあります。
世の中には、負帰還をかけているデジタルアンプもありますが、かなりエキセントリックなケースです。
ClassAAはオーディオ小僧のあこがれだった
当時、テクニクスのアンプを所有していました。電源を入れると、先ず”VOLTAGE CONTROL”のLEDが光ります。そして、少し間をおいて、カチッというリレーの音と共に”CURRENT DRIVE”のLEDが光り、準備完了となります。この演出がすごくかっこよかった。
現在もそうですが、アンプといえばAクラスアンプが最高峰です。ClassAAは、なんとなくAクラスアンプよりも上等だと思い込んでいました。所有欲をくすぐってくれるアンプでした。
昔作ったClassAAヘッドホンアンプの性能試験
昔作ったClassAAヘッドホンアンプの性能試験を行います。これを制作したのは、2022年の1月でした。当時は、ユニバーサル基板で組んでいました。
その後、何度かの手直しを経て現在に至っています。度々の変更で、基盤は大分傷んでいます。また、部品の取り付けも稚拙さが目立ちます。

使用したオペアンプは、電圧増幅がLF412で、電力増幅がNJM4556です。後述しますが、上の写真では、電圧増幅がNJM4556、電力増幅がLF412に替えてあります。
三年ほど前の制作ですが、今見ると恥ずかしくなるくらい下手くそな作りです。当時は、電源回路にオーディオグレードのコンデンサを使用していました。無駄なことをしていました。
昔作ったClassAAヘッドホンアンプの性能試験:正弦波増幅
いよいよ、昔作ったClassAAヘッドホンアンプの性能測定をします。当時、電源電圧12V(±6V)で設計していましたので、性能試験も12Vで行いました。



可聴域の正弦波はきれいに増幅できています。オフセットも見られません。良好な結果が得られました。しかし、周波数を上げていくと挙動が変わります。

入力信号の周波数を210kHzまで上げると、波形が大きく乱れました。もちろん、可聴域のずっと上の周波数ですので、聴感上の影響はないはずです。
性能試験:矩形波増幅
正弦波に続き、矩形波の増幅を行いました。矩形波は、多くの高調波を含んでいますので、周波数特性の差が顕著に出ます。特に、高域の性能が悪い場合、オーバシュートやリンギングが発生します。また、信号遅延が大きい場合、発振することもあります。



1Hzはきれいに増幅できています。しかし、1kHzでオーバーシュートが見られます。さらに、20kHzになると、リンギングが発生していることが分かります。
出力波形に関しては、最近制作した、ディスクリート構成のヘッドホンアンプに軍配が上がります。
性能測定:スルーレート
信号の追従性を表すスルーレートを測定しました。

測定の結果は、464nSあたり1.59Vの電圧変化でした。これを1マイクロ秒あたりの数値に換算すると、3.42V/μSとなります。スルーレートに関しては、音声信号増幅用としては十分な値です。しかし、最近制作した、ディスクリート構成のヘッドホンアンプは、この20倍ほどの数値をたたき出しています。
性能測定:リニアリティー
三角波と階段波を入力し、増幅後の波形を観察しました。これにより、電圧レベルによる増幅率の変動の有無を確認します。三角波を構成する線が直線であること、そして、階段波の段差が均一であることが望ましいです。


いずれも良好です。
性能測定:無信号時出力オフセット
電源ON時のポップノイズの原因で、ヘッドホンを破壊する原因ともなりうるオフセットを測定しました。


この程度のオフセットなら、ヘッドホンやイヤホンに悪影響を与えることはないでしょう。また、電源投入時のポップノイズもわずかに聞こえる程度で、不快になるほど大きくはないでしょう。
オペアンプを入れ替えて再測定
ここまでの測定は、電圧増幅にスルーレートの高いLF412を使いました。また、電力増幅にはスルーレートが低いNJM4556を使用していました。これを、逆にしたらどうなるのかを試した見ました。
つまり、電圧増幅にNJM4556を使用し、電力増幅にLF412を使用してみました。
その結果、矩形波の増幅で顕著な違いが出ました。

20kHz矩形波で生じていたリンギングは、オペアンプ入れ替えで、小さなオーバーシュートになりました。
スルーレートはどうでしょうか。

オペアンプ入れ替え後のスルーレートは、1.19マイクロ秒あたり3.98Vの電圧変化でした。これを1マイクロ秒あたりの数値に換算すると、3.34V/μSとなります。この結果から、ClassAA回路では、電力増幅にスルーレートの高いオペアンプを使うと良さそうです。
昔作ったClassAAヘッドホンアンプの性能測定を終えて
三年ほど前に作った、ClassAAヘッドホンアンプの性能試験をしてみました。何度も改変を加えた結果、基盤はかなり傷んでいます。また、部品の取り付けも汚いです。しかし、測定の結果は良好でした。20kHzの矩形波ではリンギングが見られました。しかし、リンギングの周波数成分は、可聴域の外側ですから、聴感上影響はないはずです。そのリンギングも、オペアンプの順番を変えるだけで収まりました。
このClassAAヘッドホンアンプは非常に思い出深いです。カップリングコンデンサを外したのは、このヘッドホンアンプです。また、ダンパー抵抗を外したのもこのヘッドホンアンプが最初です。今では当たり前に行っていますが、当時はかなりの冒険でした。ヘッドホンやイヤホンに悪影響が出てはいけません。そこで、手持ちのオーディオ装置やPC、スマホの音声出力端子から直流が出ていないことを確認しました。
そんな中で、一つだけ、強烈に直流を出す機器がありました。直流が出力されていないか、必ず測定するようにしていたため見つけることができました。しかし、測定を怠っていたら、イヤホンを壊していたかもしれません。怪我の功名です。
久しぶりに使ってみたClassAAヘッドホンアンプですが、素晴らしいアイデアだと思います。オペアンプを二段通したら、普通は発振してしまうでしょう。しかし、このClassAAヘッドホンアンプは発振しません。
昔作ったClassAAヘッドホンアンプの音質は?
音質については、性能測定の結果を見ていただければ察しはつくと思います。しかし、個人的にはあまり好きになれない音質です。その理由は後述します。
ただし、オペアンプを使っていることは問題です。一般的に、オペアンプは、ヘッドホンやイヤホンを駆動するようには作られていません。そのため、データシートに書かれた性能は出ないかもしれません。また、発熱するかもしれません。場合によっては壊れてしまう可能性もあります。しかし、NJM4556やNJM4580など、ヘッドホンアンプとして使用することが想定されている製品は別です。
さらに、ClassAA自体の弱点もあります。それはダンピングファクターです。ClassAA回路では、電力増幅回路の出力電圧を決めるために、ホイートストンブリッジを使っています。電力増幅回路の出力は、10Ωのダンパ抵抗を通じて出力されます。そのため、出力抵抗が大きくなり、ダンピングファクターは小さくなります。
ダンピングファクターが小さくなることで、ラウドネスが効いたような独特の音質になります。つまり、アンプが音に味付けをしてしまいます。これをどう考えるかは、利用者次第です。私個人としては、アンプによる音質の変化を好ましく思っていません。