ホイートストンブリッジを研究する

ホイートストンブリッジを研究します。先日設計したClassAAヘッドホンアンプですが、発注した部品が届きません。したがって、組み立てることができません。そこで、この空き時間を利用して、ClassAAの心臓部であるホイートストンブリッジを研究します。そもそも、これまで作ってきたClassAA回路は、ネットに落ちていた回路図を引用しています。そのため、本来の目的も不明です。一言にアンプといっても、ヘッドホンアンプ用とスピーカー用では出力が違います。したがって、もう一度回路を吟味して、ヘッドホンアンプに最適な回路定数を見つけたいと思います。
ClassAA回路の肝はホイートストンブリッジ
部品が揃うまでの時間を利用して、LTSpiceを使って検証を重ねています。ホイートストンブリッジは、下図のような回路です。

上の図には、ネットで拾ったClassAA回路で使用されている抵抗値を代入してあります。ホイートストンブリッジの肝は、対角にある抵抗値の積をもう一方の対角の積と同じにすることです。上図では、R1×R4=R3×R2とします。すると、Aの電位とBの電位が同じになります。ClassAA回路では、この性質を利用して、電力増幅回路を駆動しています。
ClassAA回路では、ホイートストンブリッジのもう一つの性質も使用しています。それは、上図Aのポイントでは、流入電流がゼロになることです。その状態を下図に示します。


回路図中のV1から1Vの電圧が供給されています。すると、A点の電圧はR1とR2で分圧され、500mVになります。ここに、V2から500mVの電圧を供給すると、同電位ですのでV2からの電流の流入はありません。ここがClassAA回路の巧みなところです。信号を供給する電圧増幅回路の負荷はありません。つまり、電圧増幅回路には差動増幅回路ような出力インピーダンスの高い(=ドライブ能力の低い)回路でも使用できます。
シミュレーション:標準定数使用
先日設計したClassAA回路をシミュレーションします。まずは、ホイートストンブリッジの定数をネットで拾ったClassAA回路と同じにした回路のシミュレーションをしてみました。


グラフの緑色の線は、電圧増幅部の出力波形です。青色の線は電力増幅部の出力波形、赤色の線が最終的な出力波形です。
電圧増幅部の出力(緑色)が出力(赤色)よりも大きくなっています。これは、R2で生じる電圧降下分が、差動増幅により補われているためです。そして、電力増幅部の出力(青色)はR1とR2による電圧降下を補っています。こうやって見ると、電力増幅回路の負担が大きいことが分かります。
シミュレーション:標準定数、高負荷時
次に、高負荷時の動作を見てみましょう。負荷抵抗(RLoad)を8Ωにしてみました。


電力増幅部の出力波形(青色)が大きく乱れていることがわかります。やはり、ClassAAアンプでは、電力増幅部の負担が大きいようです。しかし、電圧増幅部の負荷は、電力増幅部が飽和しなければ0です。逆に、電力増幅部がクリップすると、不足分が電圧増幅部の負荷となります。
したがって、ClassAA回路を正しく動作させるためには、電力増幅部をクリップさせてはいけません。電力増幅部をクリップさせない方法を考えてみました。
- 電源電圧を高くする
- ホイートストンブリッジでの電圧降下を小さくする → ホイートストンブリッジの抵抗値を小さくする
- 出力電流を小さくする → 負荷と直列に抵抗を追加する
特に3.については、拾ってきたClassAA回路の回路図にも入っていました。

拾ってきた回路図を見ると、出力に100Ωの抵抗が入っています。この抵抗値から察すると、スピーカーやヘッドホンの駆動は考慮されていないと思われます。表題が『Class AA Buffer AMP.』となっていますので、入力部分か、中間部分用かもしれません。
ClassAA回路の負荷耐性を向上させる
すでにPCBは設計済みですので、出力と直列に抵抗を入れることはできません。また、電池駆動での使用を想定しているため、電源電圧を高くすることもできません。したがって、今回採れる策は、ホイートストンブリッジの低インピーダンス化だけです。
ホイートストンブリッジを構成する抵抗を、すべて1Ωにしてみました。


負荷も8Ωから7Ωに変更し、さらに高負荷化して、シミュレーションを行ってみました。出力は0dBとしました。
その結果、ホイートストンブリッジでの電圧降下が少なくなりました。そのため、電力増幅部の出力は低く抑えられています。同様に、電圧増幅部の出力振幅も抑えられています。
ホイートストンブリッジ定数変更後の回路シミュレーション
ホイートストンブリッジの定数変更後も安定して動作することを、シミュレーションで確認しておきます。まずはボード線図です。

利得は可聴域でフラットです。40kHzあたりから、周波数の上昇に伴って利得が上昇します。その後、300kHzあたりで利得はピークを迎えます。
位相は40kHzあたりから変化し始め、100MHzを超えたあたりで反転します。しかし、位相反転周波数において、利得は-70dBを下回ります。つまり、反転信号は増幅されることはなく、減衰します。したがって、このアンプは発振しません。
次にFFTを見てみましょう。

奇数次の高調波が目立ちます。しかし、いずれも0.1%未満ですので、極端に音を濁すことはないと思われます。
こんど組み立てるClassAAヘッドホンアンプでは、ホイートストンブリッジを全て1Ωにします。この変更を行っても、ClassAA回路として正しく動作することを確認しました。