失敗したClassAAヘッドホンアンプの改良

失敗したClassAAヘッドホンアンプの改良をします。以前制作した、ClassAAヘッドホンアンプは失敗作でした。なぜか、電力負荷がかからないはずの電圧増幅部に、過大な負荷が加わっていました。その結果、出力波形は、激しく乱れていました。
しかし、電圧増幅部の負荷を軽減する方法を思いつきました。そこで、以前制作したClassAAヘッドホンアンプを改良し、正常に動作するようにします。
失敗したClassAAヘッドホンアンプ:失敗の再確認
失敗したClassAAヘッドホンアンプは、電圧増幅にTL072というオペアンプを使用していました。そして、電力増幅部には、NJM4556というオペアンプを使用していました。ClassAAヘッドホンアンプの音質は、電圧増幅部で決まります。
几帳面で繊細な音質のTL072を電圧増幅に使用しました。そして、力持ちだけど、すこしヤンチャなNJM4556を電力増幅に使用しました。TL072の繊細さと、NJM4556の力強さを併せ持った、素晴らしいアンプになるはずでした。しかし、出てきた音はとんでもないものでした。オシロスコープで出力波形を見たところ、波形は大きく歪んでいました。



几帳面で繊細なTL072の持ち味が全く出ていません。その上、NJM4556の力強さも感じられませんでした。使用するオペアンプを何種類か入れ替えて試して見ました。その結果、出力部分に抵抗が設置されているオペアンプを、電圧増幅部に使用すると、信号が歪むことが分かりました。



失敗したClassAAヘッドホンアンプ:理論通りに動作していない
シミュレーターを使用して確認した結果、電圧増幅部からの電流流出は無いはずでした。しかし、実際には、電圧増幅部のオペアンプの負荷が過大であったため、信号が歪んでいました。



事前確認は、上図の回路を使用して行いました。そして、下図のような結果を得ていました。



しかし、現実にはシミュレーションどおりに動作していませんでした。
失敗したClassAAヘッドホンアンプの設計を見直す
ClassAAヘッドホンアンプを設計するにあたっては、ネットで拾った回路図を参考にしていました。そして、拾った回路図がどのような目的で設計されたのかも知らずに、コピーして使用していました。



拾った回路図に使用されていたホイートストンブリッジは、電圧増幅部が低抵抗側に接続されていました。そして、失敗したClassAAヘッドホンアンプのホイートストンブリッジは、全ての抵抗が1Ωでした。
これを疑ってみることにしました。そもそも、ドライブ能力の低い電圧増幅部を、ホイートストンブリッジの低抵抗側に接続してはいけないのでは?そこを疑ってみました。そこで、こんな設計にしてみました。



上の回路図で、赤線で囲んだ部分が、変更部分です。ホイートストンブリッジは、対角の積が、他方の積とイコールであれば成立します。上図であれば、R1×R4=R2×R3であれば正しく働きます。今回は、R1とR2を1Ωから1kΩに変更しました。
電圧増幅部の出力線は、電力増幅部の非反転入力に、直接接続されています。しかし、出力端子には1kΩの抵抗を介して接続されています。この抵抗により、電圧増幅部は、出力端子に繋がれた機器による、強烈な負荷から守られます。
失敗したClassAAヘッドホンアンプを改良する
改造の方針が決まりましたので、早速改良作業に入ります。まずは、失敗したClassAAヘッドホンアンプをバラします。



バラしたら、抵抗4本を交換して、作業は終了です。改良作業が終わったら、例のSIMPLE PLAYERに繋いで鳴らしてみました。



この改良は、大成功でした。歪は全く感じられません。NJM4556の荒々しさは抑えられ、TL072の繊細さと正確さに支配されています。今回の改良で、狙い通りの性能が、得られるようになりました。
性能測定:出力波形
改良後のClassAAヘッドホンアンプは、実に良い仕事をしてくれます。しかし、個人の感想だけでは説得力がありませんので、性能測定をしてみました。
まずは、正弦波を入力し、出力信号の波形を観察してみました。









正弦波に関しては、非の打ちどころがありません。完ぺきな波形です。ノイズも歪もありません。
次に矩形波を見てみましょう。









矩形波に関しても、完ぺきといってよいでしょう。しかし、20kHzの矩形波に関しては、立下り部分に、JFET入力のTL072らしい、甘さが見えます。しかし、立ち上がり部分に表れやすい、NJM4556特有の荒々しさは抑え込まれています。
TL072とNJM4556の組み合わせは、当初の読み通り、素晴らしい仕事をしてくれています。



性能測定:スルーレートとリニアリティー
スルーレートの計測と、リニアリティーの確認をしてみました。
まずは、スルーレートの計測です。



計測の結果、364nSあたり1.2Vの電圧変化でした。これを、マイクロ秒あたりの値に換算すると、3.29V/μSとなります。さすがに、スルーレートまでは、TL072の力が及ばなかったようです。しかし、3.29V/μSという数値は、オーディオ用アンプとしては、十分な数値です。
次に、三角波と階段波の出力波形で、リニアリティーを確認します。






三角波は、綺麗な直線で構成されています。したがって、電位による増幅率の変動は無く、リニアリティーは確保できています。階段波については、JFET入力のTL072らしさが見られます。しかし、段差が揃っていますので、三角波の結果と併せて、リニアリティーに問題は見られません。
ClassAAヘッドホンアンプは見事に復活した
理論上も、シミュレーション上も、問題のない設計でした。しかし、実際には電圧増幅部の負荷が高すぎました。そこで、理論もシミュレーションも一旦無視して、対症療法的ではありますが、改良を施しました。その結果、TL072もNJM4556も、本来の持ち味をしっかり出してくれるようになりました。
本当に素晴らしいヘッドホンアンプになったと思います。