世界一の○○

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一寸した話の種として世界一というのは実にふさわしいものです。世界一を集めたギネスブックなんていうのも、元々は人見知りの激しいイギリス人が、パブで隣の人に話しかけるきっかけや、話題が枯渇してしまった場合に閻魔帳のように使う為に作られたものではないかと思います。一説によると、ギネスブック自体が発行部数世界一を狙って出版されたという話もあります。
最近では世界一高い自立型電波塔である東京スカイツリーが完成したことが記憶に新しいですが、実はずっと昔にスカイツリーの高さを超える1000mの塔の建設計画があったのをご存知でしょうか。時は1985年、当時の茨城県筑波市で開催されたつくば国際科学博覧会の呼び物にしようと建設計画が持ち上がりました。設計図まで出来上がっていたのですが、必要となる予算二兆円の調達がかなわず、高さ50m弱のシンボルタワーに姿を変えてしまいました。
一方、東京スカイツリーの総工費650億円で、随分とコストダウンが図られています。恐らく鋼管フレーム溶接構造を採ることで建設費を抑えたのでしょう。その一方で、一部の機能を残して一線から退く東京タワーの方は鋼材をリベットと呼ばれる鋲で締め付ける工法を採りました。私は一応溶接の免許を持っており、それなりの知識は持っていますので、東京タワーが溶接を採用しなかった理由はなんとなくわかります。リベットの欠点は、組み付け現場にリベットを頃合よく赤熱する為の炉を持ち込まなければならない事です。恐らく当時は現在多く使われる高周波加熱炉が一般的ではなかったでしょうから、コークス炉を現場に持ち込んだのではないかと思います。それから、鋼材にリベットを通す為の穴を開けなければならないという難点もあります。勿論、穴を開けた分だけ鋼材の強度は落ちます。
一方、溶接にも問題はあって、溶接の速度によっては鋼材に残留応力や熱による歪み生じます。つまり、熱ひずみができるだけ残らないように、予熱したり頃合の良い速度で溶接し、残留応力を逃がす為にじっくり冷やす必要があるわけです。そして、溶接で夫も怖いのが水素病と呼ばれる現象です。熱を加えた鋼材に水素が結びつくと、硬く脆くなります。これを防ぐ為には、溶接箇所の水分を十分に飛ばしたり、溶接箇所に炭酸ガスなどの不活性ガスを吹き付けて周囲の空気を遮断する必要があるわけです。
恐らく、東京タワー建設当時は不活性ガスで空気を遮断して溶接するイナートガス溶接が一般的ではなかったのでしょう。
一方、数々の問題を解決しながら完成した、世界一の自立型電波塔東京スカイツリーは世界一の溶接技術の賜物であるといっても良いでしょう。