余韻を楽しむ

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sekishunその昔ハマっていた花村萬月氏の本ですが、過去に買ったものは、捨ててはいないのですが、どこに行ったのかわからなくなってしまったので買い直しました。今回は電子書籍版ですね。

花村氏の本はとにかく余韻がいいですね。活字の利点をフルに生かした文体と構成です。ですから、映像になってしまうとどうにも行けません。『ゲルマニウムの夜』『皆月』『なで肩の狐』あたりが映像化されていますが、原作の方がずっと良いです。

活字ならではの余韻が、映像になってしまうと残らないんですよね。花村氏の本で一番を挙げるとすれば『ブルース』です。花村氏の本は、書店での取り扱いが無いことが多くて、十年ほど前で既に『ブルース』は電子書籍しかなかったですね。

maborosiその一方で、歴史ものであれば風野真知雄氏の『幻の城』が余韻に富んだ本です。最後の流人であった宇喜多秀家を大阪夏の陣に登場させ、史実と虚構をないまぜにした構成は時代小説の白眉でしょう。この本もとにかく余韻に富んでいます。大坂夏の陣で敗走を喫した秀家は真田幸村の影武者である根津甚八とともに八丈島に戻り、島津藩の蜂起を待つというところで物語は終わるのですが、南国の島の波打ち際で襤褸を纏った老兵が二人が言葉少なに水と戯れる姿はどうにも哀愁に溢れています。

 

昨年末、平家落人の里に行ってきましたが、これもまた非常に哀愁に満ちた場所でした。天皇家の血を引き継ぎ、栄華を極めた平家が敗走の末にたどり着いた場で、身分を偽り、政から遠ざけられ、そして糊口をしのぐ為に生業を持ち、その末裔(名前で末裔であることが解るのです)の営みを垣間見たわけですが、歴史の重さというよりは、人の業を感じました。