「蕎麦でも食うか」

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今日のお昼は蕎麦です。まず一枚目は春の香り豊かな桜蕎麦です。御覧の通り随分と慇懃な蕎麦です。

 

 

 

 

 

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二枚目は外一(といち)の蕎麦です。外一の蕎麦を出すということは、随分と腕の立つ職人さんが蕎麦を打っているのでしょう。

そして三枚目は田舎切りです。

蕎麦といえば思い出されるのが、鈴木清順監督の映画『ツィゴイネルワイゼン』です。原田芳雄演ずる中砂が藤田敏八演ずる青地に向かっていきなり「蕎麦でも食うか」というセリフを吐くのですが、これが実にいい。原田芳雄氏の言いっぷりが実に見事で、見ている者も思わず蕎麦が食べたくなります。蕎麦を食べると必ずこのセリフを思い出します。

さて、蕎麦というものは元来贅沢な食べ物で、酒を出すような蕎麦屋に行くとヌキというものがあります。私の知る限り、ヌキは品書にはないのですが、日本酒を注文するのと同時に、たとえば「鴨ヌキ」とか「天ヌキ」と注文すると、大抵出してくれます。ヌキというのは「蕎麦抜き」を意味します。「鴨ヌキ」は鴨南蛮から蕎麦を抜いたもので、蕎麦の汁に鴨肉とネギが浮かんでいるわけで、これを肴に熱燗で一杯という塩梅です。元来蕎麦というのは三立てが基本ですから、注文してから随分と時間がかかるわけです。そんな蕎麦待ちの時間を熱燗とヌキでつぶすわけです。気の利いた蕎麦屋なら、お銚子が空くころを見計らって「もう一本点けますか、お蕎麦になさいますか」とそれとなく訊いてくれます。そんな気持ちの良い蕎麦屋に行くとついつい、「もう一本お願い、ついでに天ヌキも・・・」なんてやってしまうもんですからついつい長尻になってしまいます。そして酔狂も手伝って、蕎麦猪口に熱燗を注ぎ、これに蕎麦を付けて食したりもするのですが、これも実にいい。

最近は適当に暇で、お客の事を構ってくれる蕎麦屋というのは少なくなったもので、ヌキはあってもなんとなく慌ただしいもので、どうにも居住まいの悪い蕎麦屋が増えました。青山の雑居ビルの中にそんな気持ちの良い蕎麦屋があるのですが、混んでしまうといやなので、必ず一人で行くことにしています。もちろん、誰にも教えませんよ。