『火山のふもとで』

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kazan松家仁之著の『火山のふもとで』を読了しました。NHKのドキュメンタリー番組の最後でちらりと触れられたのを見たことがきっかけでこの本を手に取りました。確か、「魂が震える本」として評されていたように記憶しています。結局そのドキュメンタリー番組が放送されてから二年近く経過してからこの本を手にしました。

「魂が震える」というほどではないにせよ、佳作です。主人公である「僕」は恐らく私より少しだけ年配で、概ね同時期を生きてきたものとして、生きる世界は違えど共感できました。私の考える庶民の生活とは少しだけ異なった者たちの物語で、大部分は生活感のあまり感じられない人々によって、主に別荘地として知られている高原を舞台に繰り広げられます。そういった意味では、小説らしい小説です。

良い小説というのは、現実と虚構が適度に交じり合い、少しの抑揚といやらしさの無いディテールの描写、そして読了後に残る余韻ではないかと常々考えているのですが、『火山のふもとで』は、その全てを備えた、入念な構築と推敲が重ねられています。

グッと来たのは、話の終盤で登場する「ガラス瓶に放り込まれた鉛筆」でした。こういった小道具の使い方が実に上手いです。久々に良い小説を読みました。