『苦役列車』
映画化されたからという訳ではないのですが、西村賢太氏の『苦役列車』を読んでみました。恐らく主人公の北町貫太という名前は作者自身の名前から容易に連想できることから、作者自身の事を下敷きとして書かれた小説であることは容易に想像できます。
主人公の北町貫太は父親が起こした犯罪が切っ掛けとなり、住み慣れた場所を離れ、進学もあきらめ日雇いの港湾労働者として働いています。しかし、根っからの怠け者の貫太は日払いで渡される日当をさっさと飲み食いに使い、金が続か無くなると働きに出、金が有れば仕事を休むという自堕落な生活を送ります。しかし、とある日、いつもの仕事先で同い年の日下部が同じ仕事場にやってきます。同い年という事も有ってか、二人は会話を交わし、仕事からの帰り道に食事を一緒にし、酒を酌み交わすようになります。自堕落な貫太は勤勉な日下部に導かれるように毎日出勤するようになります。相手の立場を推し量る事ができない貫太は日下部とその彼女と野球を観戦し、酒を酌み交わします。しかしそこで貫太は日下部に暴言を吐き、以降段々と疎遠になっていきます。
日雇いの港湾労働者という最底辺の労働者、そして一万五千円の家賃も払えぬほどに計画性のないどうしようもない貫太の姿を描いた物語です。何とも救いようのない若者の姿を描いていますが、物語は貫太が若かりし頃の特に日下部の事を回想している場面で終わります。恐らくは作者自身が自分の若かりし頃を回想して書いた物語なのでしょう。
どうしようもない若者の姿を描いているのですが、貫太のような若者がいてもいいじゃないか。そして、貫太のような生活もそれなりに居心地が良いのではないかと思えてきます。どうしようもない物語ですが、そんな生き方も有るよなと思わせる魅力が有ります。恐らく貫太のような者には近づきたくはないのだが、そばにいたらそっと見守りたくなる、不思議な魅力を感じます。そんな不思議な魅力のある物語です。