『堕落論』

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坂口安吾氏の作品は、なんというか独特の世界観のようなものが有って、妙に身につまされる作品が多いです。誤解を恐れずに言えば、坂口安吾氏は、所謂文豪では無くどちらかと言えば落伍者に近かったのではないでしょうか。このあたりは、『白痴』や『黒田如水』といった著書に顕著に表れているように感じます。

さて、『堕落論』ですが、やはり坂口安吾氏ならではの視点で書かれた云わば随筆のようなものです。先の大戦後に書かれた作品で、敗戦によって日本は堕落したのではなく、寧ろ自然と堕落する民族であるから武士道が生まれ、堕落することを戒めてきたと説いています。先の大戦に関しても同じく、堕落する民族であるから厳しい軍規を設け、「生きて虜囚の辱を受けず」という精神を植え込んだとも説いています。そして、人間本来の生き方を取り戻すために、寧ろ堕落すべきではないかと説いています。

『堕落論』の中では、四十七士が巷間語り継がれているものとは異なり、実際には非常に無様な最後を遂げたことも書かれており、恐らくは忠という名の虚飾は寧ろ無様である事を言外に語っているのでしょう。先ずは堕落し無様であっても虚飾の無い人間らしい正直な生き方をすべきであると説いているのでしょう。

『堕落論』を読んでいて思ったのですが、ソローの『森の生活』との沢山の共通点を見つける事が出来ました。ソローは生涯を通じて正業に就くことが無く、人間らしい生き方を求めて2年間森での生活を送り、100年以上も色あせない見事な著書を残すわけです。『堕落論』はソロー氏の思想をよりコンパクトに密度濃く再構築したものの様に私は感じました。