田山花袋著『田舎教師』

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行田の実家を出て羽生の小学校に教師として赴任する若者、林清三の生涯を描いた作品です。嘗ては裕福だった家も零落し、貧困の中に兄弟を失い、周囲の者が進学の道を目指すなか、進学をあきらめる。清三は中学を出ると友人加藤郁治の父が郡視学であることを利用し、小学校教員の口を得る。しかし、いざ羽生の小学校に足を運ぶと、幾分の手違いがあり、赴任先の小学校にはまだ前任者がおり、前任者が退職するのを待つことになる。その間行き場のない清三は小学校の宿直室に寝泊まりをする。

数日して、採用となった清三は教壇に立つこととなるが、校長は師範学校を出ていない清三は薄給に甘んじなければならないので、師範の資格を取るよう勧める。やがて清三は資格試験に失敗し、失意のまま羽生へ帰ります。その帰途、師範学校へ進学した友人を妬み、零落しまともな働きもない父を呪います。希望を失った清三は娼妓に入れ込むことになりますが、この娼妓は清三に語った言葉とは裏腹に突然身請けされて清三の前から姿を消します。清三は娼妓通いによって大きな借財を作っていましたが、娼妓が自分の前からいなくなったのを契機に心を入れ替え真面目に教師として働く決心をします。

そのころには清三を慕う生徒も増え、毎週のように清三に手紙をよこすようになった卒業生もできました。そして、陰になり日向になり清三を助けた郵便局員の荻生のような平凡な生活こそ尊いものであると気づきます。今後は借財の返済に努め行田に暮らす母を助け、品行方正に暮らす決心をします。しかしそのころ清三の体は病に侵され、再び教壇に立つことはありませんでした。

清三の死後、加藤郁治と荻生の手によって墓標が設けられ、清三の勤めた小学校には清三の教え子が教師として赴任しました。

この作品は、田山花袋が寄宿していた建福寺(作品中では成願寺)にあった小林秀三(作品中では林清三)の墓から着想を得て、小林秀三の残した日記を元に小説にしたものです。