誕生からもうすぐ半世紀のオペアンプ、4558を使ってみる

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1963年にフェアチャイルド社から半導体IC型のオペアンプμA702が世に送り出され、その改良版 μA741が世に出たのは1968年でした。元々開発製造を行っていたフェアチャイルド社は存在していませんが、μA741は世紀が代わった現在でも別の作り手によって製造されていて、入手も可能です。 そして、μA741二つを一つにまとめ、差動入力差動出力の増幅器として使いやすくしたRC4558がレイセオン社から世に送り出されたのが1974年です。

RC4558は一つのチップに二つのアンプが内蔵されていて、二チャンネルステレオ増幅に都合がよかったことと、特性もオーディオ用に都合が良かったためかかなり売れたようです。これに目を付けた半導体製造業者はこぞってRC4558のセカンドソース(コピー品といった方が分かりやすいかも知れませんね)を作りました。1961年にレイセオンと合併した新日本無線(2018年に日清紡ホールディングスの子会社、日清紡マイクロデバイスとなりました)でも4558は作られ、NJM4558として現在でも入手可能です。

データシートにも741を二つ封入し、差動入出力アンプとして使える旨が記載されています。
RC4558の直系であるNJM4558のデータシートにも741の改良型であることが記されています

集積回路ICの黎明期に生まれ、誕生からもう少しで半世紀にもなろうかというオペアンプ、NJM4558を入手しました。入手は至極簡単で、部品屋さんに行けば普通に買えます。購入の個数にもよりますが、お値段は非常に安く、一個数円での入手も可能です。さすがに世に出て半世紀近く経過した製品ですから設計そのものが古く、特性も後に開発された製品と比較すると桁違いに悪いものです。データシート上の周波数特性を見ても上は20KHzがやっとであることが見て取れます。スルーレート(出力信号の立ち上がり速度を表す指標で、この数値が高いほど入力に対する出力の追従性が良いといえます)も1V/μsと桁違いに遅いです。例えばリニアテクノロジー社のLT1364というオペアンプのスルーレートは1000V/μsとなっていて、NJM4558が亀のように遅く感じられるほどです。

現代の感覚からするとスルーレートは桁違いに低い値です
最大出力電圧と周波数のグラフを見てもせいぜい20KHzくらいまでしか伸びていません

数値だけ見ていると4558の性能はプアで使い物にならないと思えてきます。ただ、逆にスルーレートが高ければ素晴らしい音がするはずだという思い込みで過去にLT1364を試したことがあります。結果はひどいものでしでした。電源に接続した途端に発信が始まり、チップ自体も触れないくらい高温になってしまいました。データシートにも位相補償用のキャパシタを帰還回路に入れなければならないと書かれていました。NJM4558は位相補償回路を内蔵していますので意図的でなければ発信することは無いと思われます。さっそく使ってみましょう。

使いやすい石ですのでストック用として30個買いました
新日本無線は日清紡マイクロデバイスに変わりましたので、チップ上のメーカー表記も変わるのでしょうか?
4558のとりあえずの落ち着き先はZishanZ1です。普段はOPA2132を使っています。まずはこいつを外して
4558に換装しました
4558をアップにしてみました

んー、良い感じです。歴史を感じながら聞くと気分的にも古い音を聞いているような錯覚に陥ります。使用前はチップ内に内蔵されたダンピング抵抗による電圧降下の影響で、インピーダンスの低いイヤホンを鳴らすのは難しいと想像していましたが、杞憂でした。実際に使ってみると、なぜ半世紀近くも作り続けられているのかわかるような気もします。神経質なところが無く使いやすいから需要があるのだとおもいます。そして需要があるから作り続けられているということではないかと思います。

データシートの数字やオシロスコープの波形を見れば見劣りがしますが、実際に使ってみると「これでいいじゃん」と思える良さがあります。だからこそ今でも需要があるのでしょう。これからも、しばらくは使われ続け、作り続けられることでしょう。

製造元の新日本無線はこのところ業績が芳しくない状態が続いていたようですが、日清紡グループの傘下に入ったことで少し落ち着いたのではないかと思います。近年はMUSESというブランド名で音質面に配慮したことをうたい文句にしたデバイスを作っていて、一部で話題になっているようです。末永く良い製品を作り続けてほしいと思います。

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