オペアンプ真贋鑑定 – ne5532の場合
今年最後のオペアンプ真贋鑑定をやってみました。これまでの偽物判定では取り扱ってこなかった、ne5532の真贋を判定してみようと思います。ne5532は、オーディオ用としては定番のオペアンプです。そして、このne5532は他のオーディオ用オペアンプとは少し構造が違います。そして、真贋の判断にもこの構造の違いが使えます。
オペアンプ真贋鑑定に使えるne5532独自の内部回路
ne5532は、非反転入力端子と反転入力端子の間に特徴があります。それは、入力端子の間に二本のダイオードが入っていることです。このダイオードの働きにより、+-の入力端子間の電圧が制限されています。最大電圧はダイオードのVf(順方向電圧)になります。これについて、データシートの等価回路図で確認してみましょう。
上の図は、TI社のHPに掲載のデータシートから引用しました。図中の赤丸の部分がne5532の独特な部分です。この図では、ダイオードではなくトランジスタが挿入されています。しかし、このトランジスタはベースとコレクタが短絡されています。これにより、エミッターがダイオードのカソードに。そして、コレクターがダイオードのアノードと等価となります。つまり、トランジスタをダイオードの代用として使っているわけです。
ne5532の改良品、njm2114にもダイオードが入っている
njm2114は、ne5532のセカンドソース品njm5532を改良したオペアンプです。したがって、本家本元のne5532と同じく、反転入力と非反転入力の間にダイオードが入っています。念のため、データシート掲載の等価回路を確認しておきましょう。
オペアンプne5532の真贋はダイオードの存在でわかる
ne5532ファミリーであるか否かは、入力端子間にダイオードがあることを確認すればわかります。では、実際にどのようにすれば良いでしょうか? それは簡単です。反転入力端子と非反転入力端子の間の順方向電圧(Vf)を測ればよいのです。では、実際にやってみましょう。
今回の真贋鑑定対象のオペアンプ
①恐らく本物のne5532
一つ目は、そこそこ名の通ったメーカー製のDACに使われていたものです。そもそもオペアンプは交換前提だったのか、ソケットに装着されていました。
②恐らく偽物のne5532
二番目はアリエクで買ったヘッドホンアンプキットに付属のne5532です。TIのロゴはグズグズです。そして、型番を表す文字も上下に波打っているように見えます。
③出所不明のne5532
ヤバいやつ登場です。TIのロゴは原形をとどめていません。また、型番が波打って配置されているのは、これが粗悪な偽物であることを表しています。もし、本物を見たことが無い人でも、一発で偽物と判断できることでしょう。ちなみに、出所は不明です。
ne5532の改良品、njm2114も鑑定します
④njm2114の恐らく偽物
njm5532を源流とするnjm2114にも登場いただきました。ただし、このnjm2114ですが、チップ表面の型番表示がレーザー刻印です。旧JRC製のオペアンプは、型番は印刷のものがほとんどです。したがって、レーザー刻印の、このオペアンプは偽物だと思います。ただし、旧JRC製のオペアンプと同様に1番ピン側にノッチがありません。したがって、旧JRC製の他のオペアンプの型番書き換え品だと思います。
入力端子間の順方向電圧測定
ne5532は反転入力と非反転入力の順方向電圧を測ればわかります。順方向電圧が0.7V程度であれば、入力端子間にダイオードが入っている証拠になります。また、極性を変えて測定しても同等の数値になるはずです。
①恐らく本物のne5532
極性を変えて都合二回順方向電圧を測定しました。その結果、ほぼ同じ数値を示しました。したがって、このオペアンプは本物のne5532と考えて良さそうです。
②恐らく偽物のne5532
順方向電圧は出ませんでした。したがって、入力端子間にダイオードが入っていない、偽物オペアンプ確定です。
③ヤバいやつ
見た目どおりのヤバいやつです。やはり、偽物でした。しかし、これは測らなくてもわかります。
④型番の刻印が怪しいnjm2114
ちょっと怪しいと思っていたのですが、順方向電圧はちゃんと出ています。でも、まだ怪しいので、次の鑑定に移ります。
オペアンプ真贋鑑定の神髄、スルーレートの計測
①本物だと思われるne5532
入力電圧が例のダイオードによって制限されているため、出力振幅小さめです。したがって、あまり良くない条件での計測です。そのためか、スルーレートは4.4V/μsでした。
②偽物のne5532
③ヤバいやつ
④ちょと怪しいnjm2114
データシートによると、njm2114のスルーレートは15V/μsです。ですから、このオペアンプはnjm2114ではなく、旧JRCのnjm5532かと思われます。njm5532のスルーレートは8V/μsですので、何となくこれではないかと思われます。
ne5532の偽物は分かりやすかった
ne5532三種とnjm2114の真贋鑑定してみました。反転入力と非反転入力の間にあるダイオードの順方向電圧測定を最初にやりました。この方法はテスターがあれば簡単にできます。しかし、このダイオードによって、入力電圧が制限されてしまいます。そのため、十分な出力振幅が取れず、スルーレートの測定は上手くいきませんでした。したがって、今回の測定結果のうち、恐らく本物のne5532と怪しいnjm2114のスルーレートについては不正確です。
試験用回路の、電源電圧を上げ、負帰還量を減らせば、もう少しまともな数値が出ると思います。しかし、逆に偽物は見た目だけで、かなりの確度で判定できそうです。