tda2822はnjm2073と似てるけど違う

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tda2822はnjm2073とピンコンパチなオーディオアンプICです。今回は、njm2073に引き続き、tda2822を使ってヘッドホンアンプを作ってみました。

tda2822でも増幅率を下げないと使いにくい

tda2822のデータシートによると、素の状態の増幅率は40dBです。しかし、この増幅率はヘッドホンアンプとして使用するには大きすぎます。

tda2822の増幅率 ー UTC社のデータシートより引用
tda2822の増幅率 ー UTC社のデータシートより引用

ヘッドホンアンプの場合、15dB~20dBくらいの増幅率が使いやすいと思います。増幅率が大きすぎる場合、ノイズを拾い易くなります。また、二連ボリュームでは、左右の音量差(ギャングエラー)が出やすくなります。さらに、小音量で使用する場合に、ボリューム調整がシビアになります。ボリュームツマミは、できれば中央付近で使用することが望ましいのです。これも、高すぎる増幅率を避けたい理由です。

tda2822内部の帰還抵抗値が不明

先ずは、負帰還を使って増幅率を下げたいと考えました。しかし、tda2822内部の負帰還抵抗の値がデータシートに記載されていません。したがって、外付け抵抗で負帰還をした場合の、正確な増幅率の算出ができません。このため、今回は内部の負帰還回路を無視して、外付け抵抗の抵抗値のみで計算します。しかし、多少の誤差はあっても実用上問題は無いと思います。

増幅率を決める

今回使用するtda2822は、非反転増幅に最適化されたオーディオアンプICです。したがって、非反転増幅回路としての増幅率計算となります。

非反転増幅回路のモデル図
非反転増幅回路

上図はAnalogistaより引用

非反転増幅回路は、上図のような構成となります。この、図の中の抵抗R1とR2でアンプの増幅率は決まります。増幅率は以下の式で求めることができます。

非反転増幅回路の増幅率
非反転増幅回路の増幅率

今回は、R2を4.7kΩ、R1を1kΩとします。二つの抵抗値を、上の式に入れて計算すると、増幅率は5.7倍となります。これをdBに換算すると、15.11dBとなります。これは、ヘッドホンアンプとして丁度良い増幅率だと思います。

tda2822に付加するキーパーツは決まったので試作

増幅率は決まりました。そして、負帰還以外の回路自体は前回のnjm2073のものをそのまま使います

ブレッドボード上で仮組したtda2822使用のアンプ
ブレッドボード上で仮組したtda2822使用のアンプ

仮組自体は上手くいきました。しかし、音量を上げると発振する現象が発生しました。しかも、この発振が奇妙で、波形の上側だけが発信しています。

tda2822の奇妙な発振
tda2822の奇妙な発振

これは難問です。発振のパターンがnjm2073と異なります。したがって、別の方法で発振対策をしなければなりません。見ての通り、この発振は非常に高い周波数です。大体3MHzくらいの周波数ですから、可聴域のずっと外側です。したがって、一旦は無視しようかと思いました。しかし、tda2822にかなりの発熱が見られました。このため、何とかして対策をしなければなりません。

ダーティーな方法で発振対策

結局万策尽きて、データシートに頼ることにしました。データシートに記載のテスト回路には、出力をコンデンサと抵抗を介してグランドに落としています。これは、所謂スナバと呼ばれる回路で、オーバーシュートとかリンギング対策として使われます。既に万策尽きておりますので、スナバで発振が収まることを祈ります。ちなみに、njm2073では、スナバで発振を止めることはできませんでした。

tda2822参考回路図
tda2822参考回路図

今回は、このテスト回路に少しアレンジを加えました。このテスト回路は8Ω程度のスピーカー向けの回路ではないかと思います。しかし、今回作成するのは、ヘッドホンアンプです。したかって、接続される機器のインピーダンスは22Ω~40Ωくらいになります。したかって、図中の抵抗R3とR4はもう少し大きくして、10Ωとしました。また、これに併せてコンデンサC6とC7も少し大きくして、0.33μFとしました。計算上、カットオフ周波数は48kHzとなります。これならば、可聴域には影響を与えないはずです。しかし、問題となっている、3MHz付近の発振は余裕をもってカットできるはずです。

ユニバーサル基板で本組

仮組での問題を解決した回路図がコレです。

tda2822使用ヘッドホンアンプ
tda2822使用ヘッドホンアンプ

データシートを参考に、発振対策の効果を仮組回路にフィードバックして確認をしました。そして、その結果を反映した回路図を元に、いつものように本組をしました。出来上がったものがコレです。

ユニバーサル基板上に本組したtda2822使用のヘッドホンアンプ
ユニバーサル基板上に本組したtda2822使用のヘッドホンアンプ

聴感上のノイズは全くありません。また、心配していたtda2822の発熱も見事に収まっています。

出力波形の観察 ― 正弦波

では、いつものように、試験用の信号を入れて、出力波形を見ていきます。先ずは正弦波です。今回は、ボリュームは触らずに、周波数だけを変えました。したがって、振幅を比較することで、tda2822の大まかな周波数特性が分かると思います。

20kHz正弦波入力時の出力波形

20kHz正弦波入力時の出力波形
20kHz正弦波入力時の出力波形

とてもきれいな波形が出ていると思います。ノイズも歪みもほとんど見られません。

1kHz正弦波入力時の出力波形

1kHz正弦波入力時の出力波形
1kHz正弦波入力時の出力波形

これも申し分ない波形が出ています。

100Hz正弦波入力時の波形

100Hz正弦波入力時の出力波形
100Hz正弦波入力時の出力波形

ここから先は蛇足かもしれません。しかし、tda2822の潜在能力を測るため、100Hzまで周波数を下げてみました。しかし、ここまで下げても波形は乱れていません。しかも、振幅もほとんど変化していません。

10Hz正弦波入力時の出力波形

10Hz正弦波入力時の出力波形
10Hz正弦波入力時の出力波形

周波数をぐっと下げて10Hzにしました。しかし、波形に乱れはありません。また、振幅もほとんど変化がありません。したがって、今回使用したtda2822ですが、周波数特性は極めてフラットといってよいでしょう。

出力波形の観察 ― 矩形波

単電源のアンプは、BTL構成にしない限り、DC成分を阻止するためのコンデンサが必須です。しかし、コンデンサを入れることで、特に低い周波数で歪みが出ます。したがって、この歪を如何に抑えるかが、非常に難しいです。さて、今回作ったアンプはどの程度の歪みが出るでしょうか。

20kHz矩形波入力時の出力波形

正弦波の時と同じく、ボリュームつまみは固定して、周波数のみを変化させて計測しました。したがって、波形の変化の他に、振幅の変化もわかるようにしました。

20kHz矩形波入力時の出力波形
20kHz矩形波入力時の出力波形

スナバ回路によって、オーバーシュートはしっかり押さえられています。そして、発振もしっかり止まっています。しかし、スナバ回路を入れた影響で、わずかに立ち上がりと立下り信号に遅れが出ています。しかし、この影響は、無視できるほど小さいものです。

1kHz矩形波入力時の出力波形

非常に重要な周波数である1kHzです。この辺りの周波数は、音の骨格となる部分です。したがって、この部分が歪んでいると、不自然な印象を受けます。

1kHz矩形波入力時の出力波形
1kHz矩形波入力時の出力波形

相変わらず、立ち上がりと立下りの部分にオーバーシュートが見られます。しかし、無視できる程度の大きさです。しかし、一個十円程度のICで、ここまで整った出力が得られるのは驚きです。

100Hz矩形波入力時の出力波形

100Hz矩形波入力時の出力波形
100Hz矩形波入力時の出力波形

ここまで周波数を下げると、そろそろ波形に歪みが出始めます。しかし、これは前述のとおり、単電源アンプの宿命です。もちろん、出力側に入れるカップリングコンデンサの容量を大きくすることで、ある程度改善します。しかし、これを全くなくすことはできません。

10Hz矩形波入力時の出力波形

10Hz矩形波入力時の出力波形
10Hz矩形波入力時の出力波形

ここまで周波数を下げると、歪みが顕著になります。しかし、一般的な音声信号に矩形波が含まれることはありません。したがって、矩形波での観察は実用性ではなく、限界性能を見るための試験です。そのため、通常の使用であれば、正弦波での試験結果だけで、十分に性能を推し量ることができると思います。

tda2822を使ってみて

発振対策に、随分と時間を取られました。しかし、データシートに記載の回路例を真似ることで、十分実用になるアンプを作れたと思います。また、制作したアンプに、試験用の信号を入れての試験では、予想以上に良好な結果が出ました。当初は、安物のICとバカにしていました。しかし、実際に動作させてみると、ノイズは全くありませんし、実用域での歪みも見られませんでした。しかも、周波数特性はフラットでした。もちろん、出力は最大でも600mW程しかありません。しかし、最低動作電圧は1.8Vです。したがって、乾電池での動作に最適です。njm2073と同じく、セカンドソース品も多く、入手性も悪くありません。このIC、おススメします。