『財政破綻論の大嘘』三橋貴明監修

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『財政破綻論の大嘘』という書籍を読んでみました。この本は、以前読んだ『岸田総理の大嘘』の著者、三橋貴明氏が監修しています。三橋氏は、一貫して国債の増発による積極財政によるデフレ脱却を唱えています。本書では、積極財政を阻む根本原因は財務省であると説いています。また、本書はマンガになっていて、より分かりやすくなっています。

なぜ財務省は積極財政に消極的なのか

財政破綻の危険があることを、マスコミや政治家への働きかけで強調しているのは財務省です。しかし、何を根拠に財務省は国債発行を制限しているのでしょうか。それは、財政法第4条にあります。しかし、本書では財政法第4条の一部のみを切り取っています。本書では、財政法第4条を以下のように引用しています。

「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。」

この引用は、正確ではありますが、不足しています。この引用部分だけを鵜呑みにすると、こんな疑問が頭に浮かんできます。財源として、国債の発行をしてはならないのなら、なぜ国債残高が1200兆円もあるのでしょうか。

本書はマンガですし、紙面に限りがあるので仕方がありません。しかし、この部分引用には作者の意図が感じられます。ただしく引用するなら、条文の但し書きも含めて引用すべきでしょう。正しくは、こうです。

「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。 但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」

その他にも意図を感じる部分があります

1997年のアジア通貨危機時点で、各国の名目値ドル換算のGDPを比較して、日本は世界第二位であったと書かれています。その次のページでは、GDPの伸び率を比較して、一位は中国、二位はインド、そして日本が29位となっているグラフが示されています。これにも意図を感じます。一方では”DGP”でもう一方は”DGPの伸び率”です。全く異なる指標を比較することにも作者の意図を感じます。日本の経済成長が今一つであることに異議はありません。しかし、全く異なる指標を、しかもグラフとしてビジュアル化するのは読者の誘導ではないでしょうか。

大筋では理解できるのですが・・・

本書の内容は大筋理解はできますし、賛同できる部分もあります。しかし、前述のような読者誘導は歓迎できません。また、三橋氏の提唱する英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズのマクロ経済学には一部賛同します。しかし、ケインズの理論は1970年、カーター政権時のアメリカでインフレの抑制に失敗しています。つまり、欠陥があることは明らかなのです。

竹中平蔵氏が悪者になっているが本当か?

三橋氏の書籍では、度々竹中平蔵氏が失われた30年の元凶を作ったとされています。本書も例外ではありません。それは、竹中平蔵氏がプライマリーバランスの黒字化(政府のバランスシートの赤字を解消すること)を提唱したことに端を発します。そしてこれを政府が採択してしまったことにより、日本の経済成長が止まったとしています。

これ、本当でしょうか? いくら担当大臣といえども、たった一人の発案で30年も経済発展は止まるものでしょうか? そもそも、財務省は単に覇権欲だけで緊縮財政を執り続けるものでしょうか?

素人が理解できる世界でないことは重々承知ですけど

経済の素人が、その筋の専門家の監修した本に物申すのは不遜だと思います。でも、読者を誘導しているかに見える部分があり、陰謀論的な語調の記述があったりする本書を、真に受けることに危険を感じてしまいました。