出力波形が良いと音質も良い?

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シンプルなヘッドホンアンプを作りました。そして、ステップ応答試験をしたのですが、悪くない結果でした。しかし、出力波形がきれいだと音質も良いのでしょうか? 入力信号を愚直に増幅するのが良いアンプなのでしょうか?

オペアンプtl082は高負荷が苦手

今回作ったヘッドホンアンプは、電圧増幅と電力増幅の二段階の増幅を行います。これは、一般的にオペアンプがヘッドホンやイヤホンなどの直接駆動に適していないからです。特に今回使用したtl082(秋月電子通商で購入)はその傾向が顕著です。

tl082等価回路 ー UTC社のtl082データシートより抜粋
tl082は出力インピーダンス高め – UTC社のtl082データシートより抜粋

今回使用したUTC社のtl082は、出力段トランジスタと出力端子の間に100Ω+200Ωの抵抗が入っています。これにより、接続機器のインピーダンスが低い場合、出力の電圧降下が大きくなるはずです。

しかし、世の中にはヘッドホンアンプとしての使用が想定されているものもあります。例えば、njm4580やnjm4556などは、データシートにその旨が記載されています。

今回は、オペアンプを電圧増幅専用としました。そして、オペアンプの後段に電力増幅回路を付加しました。これにより、オペアンプの負荷を下げるとともに、十分な出力電流を確保しました。また、電力増幅後の信号をオペアンプにフィードバックしました。これにより、電力増幅で発生する歪みも補正されるはずです。

電力増幅段にはtl082(utc社によるセカンドソース品)を使用
電力増幅段にはtl082(utc社によるセカンドソース品)を使用

回路設計

ヘッドホンアンプは随分作りました。しかし、最終的にはオペアンプ+トランジスタに落ち着きました。これまで、tda2822lm386のような、単電顕アンプチップも使用しました。しかし、これらの単電源アンプチップはポップノイズが大きいのが玉に瑕です。その点、両電源駆動のオペアンプ+トランジスタのヘッドホンアンプではポップノイズは発生しません。また、今回は電力増幅部にトランジスタss8050とss8550のペアを使用しました。

電力増幅段にはss8050とss8550のペアを使用
電力増幅段にはss8050とss8550のペアを使用

このトランジスタは出力電流を大きく取れます。したがって、大型のヘッドホンでも余裕で鳴らすことができます。

ヘッドホンアンプ 回路図
ヘッドホンアンプ 回路図

このヘッドホンアンプの利得は計算上15.7dBで、ヘッドホンアンプとして使いやすいと思います。なお、この回路は危険を承知で、直流成分の流入と流出を阻止するためのコンデンサを省略しています。そのため、直流成分が入力された場合、出力側機器を壊してしまう可能性があります

アンプの出力波形を観察する

今回作成したヘッドホンアンプが、危険を孕んでいることは前述のとおりです。しかし、なぜそのような回路にしたのか、その理由は以下の通りです。

  • 手持ちの機器を調べた結果、直流成分を出力する機器は無かった
  • 信号経路にあるコンデンサが音を悪くすると妄信しているから

実際にコンデンサを排することでDCから増幅できるアンプの出力波形は見事です。それは、以前作ったヘッドホンアンプのステップ応答と比較すると一目瞭然です。そして、DCから数百kHzまで伸びた周波数特性は、気分的にも良いものです。では、実際にステップ応答の結果を見てみましょう。なお、テスト信号の振幅とボリュームツマミの位置は変えずに計測しました。

まずは1Hz矩形波からスタート

1Hz矩形波入力時の出力波形
1Hz矩形波入力時の出力波形

今回作ったヘッドホンアンプはDCから増幅できます。したがって、1Hzの矩形波もしっかり増幅出来ています。

10Hz矩形波は余裕です

10Hz矩形波入力時の出力波形
10Hz矩形波入力時の出力波形

これも、全く乱れなく増幅出来ています。しかも、画像右上のVppの値はほとんど変化していません。

100Hz矩形波入力時の出力波形

100Hz矩形波入力時の出力波形
100Hz矩形波入力時の出力波形

漸く可聴域周波数に入ってきました。これも余裕です。

1kHz矩形波入力時の出力波形

1kHz矩形波入力時の出力波形
1kHz矩形波入力時の出力波形

10kHz矩形波入力時の出力波形

10kHz矩形波入力時の出力波形
10kHz矩形波入力時の出力波形

20kHz矩形波入力時の出力波形

0kHz矩形波入力時の出力波形
20kHz矩形波入力時の出力波形

一般的に、可聴域の上限と言われている20kHzの信号を入れてみました。しかし、条件の厳しいはずの矩形波でも大きな乱れはありません。正弦波なら、更に乱れは少ないはずです。

可聴域を大幅に超えた100kHz矩形波入力時の出力波形

100kHz矩形波入力時の出力波形
100kHz矩形波入力時の出力波形

可聴域を大幅に超えた100kHzの信号を入力してみました。さすがにここまでくると、波形の肩の部分が丸くなってきます。これはJFET入力のオペアンプで良く見られる波形です。

出力波形のきれいなアンプは音が良いのか?

さて、今回は危険を承知でDCから増幅できるヘッドホンアンプを作ってみました。そして、実際にステップ応答試験を行って、狙い通りの結果が出たことを確認しました。しかし、このヘッドホンアンプはいい音なのでしょうか?

周波数帯域は余裕で可聴域をカバーします。そして、測定した範囲で、振幅の変動は無視できる程度しかありません。また、波形を見る限り歪みはありません。そして、ノイズもほんの僅かです。

しかし、真空管アンプは奇数次の高調波を含むから音が良いといわれています。また、聞こえなくても倍音成分は音に艶を与えるとも聞きます。しかし、正直どの意見も信じがたいというのが正直なところです。しかも、音源に含まれてない高調波を付加するアンプがあったとしたら、それはノイズ発生器ではないでしょうか。素人が見よう見まねで作った小さなアンプです。しかし、DCから100kHzオーバーまで乱れなく増幅できます。これは、驚きです。

そして、結論です。出力波形がきれいなアンプは音が良い・・・んじゃないかな?