ディスクリートなヘッドホンアンプ

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ディスクリートなヘッドホンアンプを作ります。それにはいくつか理由があります。これまでは、オペアンプなどのICを使ったヘッドホンアンプを作ってきました。しかし、オペアンプに飽きたというのが理由の一つ目です。そして、また懲りずにアリエクで買ったオペアンプlf355がまた偽物でした。そのため、オペアンプから遠ざかってみたかったというのが二つ目の理由です。

ディスクリートなヘッドホンアンプは難しい

これまで使ってきたオペアンプやアンプICは、総じて使いやすいです。先ずは、ICを使用すれば、いくつかの外付け部品を付加するだけでアンプの出来上がりです。また、ICは総じて性能が高く、安価です。その対極にあるのがディスクリートです。これは、トランジスタなどの個別の素子を組み合わせて構成する回路です。つまり、部品一つ一つを狙った性能に併せて選択しなければなりません。これは、私のような経験の浅い素人にとって高いハードルです。

DCアンプは諦めました

これまでは、直流から増幅できる、所謂DCアンプを作ってきました。しかし、今回はDCアンプは諦めることにしました。その理由は、DCアンプの心臓部である差動増幅回路の制作に失敗したからです。また、DCアンプに否定的な意見を耳にしたことも理由の一つです。しかし、この意見はレコードの再生に限った話です。したがって、私にはあまり関係がありません。しかし、実際に10Hz以下の周波数が必要かと訊かれれば、必要ではないと答える外は無いでしょう。何しろ、聞こえもしない周波数を増幅したところで、スピーカーにストレスをかけるだけですから。

ディスクリートなヘッドホンアンプのスペックを決める

今回作るのはヘッドホンアンプです。しかし、実際に接続するのはイヤホンの場合がほとんどです。したがって出力はざっくり100mW位で十分です。また、増幅する周波数の下限はざっくり10Hzとしました。ということで、カットオフ周波数を10Hzとし、それ以下の周波数は6dB/oct.での減衰としました。そして、何の理由もないこだわりとして、入力と出力は同位相にすることとしました。したがって、電圧増幅は位相反転する電流帰還増幅回路を二回通すことで非反転増幅としました。そして、出力段はプッシュプルとします。電源電圧は設計の容易さから、12Vと決めました。

LTSpiceで回路設計

スペックが決まったら設計です。知識も経験もありませんので、回路設計は基本に忠実に行いました。そして、何とか出来上がったのが以下の回路です。

ディスクリートヘッドホンアンプ回路図
ディスクリートヘッドホンアンプ回路図(1/2チャンネル分)

教科書を見ながら設計し、シミュレーション結果を元に若干の手直しを加えた回路図です。電圧増幅に使用するトランジスタは、海外ではポピュラーなBC547を選びました。しかし、これに限らず、hfeが200~300くらいのNPNトランジスタなら使用できます小電力増幅用のトランジスタなら代替できます。有名どころでは、2SC1815とか2SC945でも大丈夫だと思います。そして、電力増幅段には、コレクタ損失の大き目なSS8050とSS8550のコンプリペアを使用しました。また、プッシュプルのバイアス回路にも電力増幅段と同じSS8050とSS8550を使用しました。これによって、バイアスのオフセットを電力増幅トランジスタのVbeと合致させました

ブレッドボードでの検証

LTSpiceでのシミュレーション結果は良好でした。しかし、シミュレーション結果が実際の動作と食い違うことは結構あります。そこで、ブレッドボードでの動作確認を行いました。

ブレッドボードでの動作検証
ブレッドボードでの動作検証

結果は問題なしでした。概ね設計通りの性能も出ましたので、回路の手直し無しで制作に移ります。

ユニバーサル基板での本組

ディスクリート構成の場合、ICを使用した場合と比較して部品点数が多くなります。そのため、部品レイアウトが難しくなります。また、今回使用した電力増幅部は熱暴走防止のため、バイアス回路との熱結合が必須です。そして出来上がったのがコレです。

組み立て完了したヘッドホンアンプ
組み立て完了したヘッドホンアンプ

いつものように5×7cmのユニバーサル基板に組んでみました。できるだけコンパクトにしてみましたが、やはりオペアンプ使用と比較して大きくなってしまいました。

動作確認

ディスクリートなヘッドホンアンプが完成しましたので、いつものようにテスト信号を入れて確認します。テスト方法は、ファンクションジェネレータの出力を増幅し、その結果をオシロスコープで観察します。なお、使用したファンクションジェネレーターはオシロスコープに内蔵されたものです。また、作成したアンプは、入力と出力のグランドレベルが異なっています。そのため、出力信号のオフセット分を取り除くため、オシロスコープの入力モードはACに設定しています。

正弦波20kHz

正弦波20kHz

波形自体は綺麗です。ノイズもほとんど見られません。ただし、この測定は電源として乾電池を使用して行いました。ディスクリートなヘッドホンアンプは、オペアンプ使用と比較し、電源からのノイズを拾い易い欠点があります。

正弦波1kHz

正弦波1lHz
正弦波1lHz

1kHzもきれいな波形が出ています。振幅も20kHzと比較して、P-Pで9mVしか変化していません。

正弦波10Hz

10Hz正弦波
10Hz正弦波

10Hzまで周波数を下げると目に見えて振幅が小さくなります。振幅は1kHz時に376mVに対し10Hz時は286mVです。これは、dB換算で-2.6dBとなります。カットオフ周波数は、-3dBとなる周波数を指します。10Hz時-2.7dBは、概ね設計通りです。

矩形波20kHz

矩形波20kHz
矩形波20kHz

若干オーバーシュートが出ています。しかし、20kHzでこの程度なら無視して良いと思います。

矩形波1kHz

1kHz矩形波
1kHz矩形波

1kHzも20kHzと同じ波形といってよいともいます。

矩形波10Hz

矩形波10Hz
矩形波10Hz

カットオフ周波数の矩形波です。当然ですが、減衰が顕著になる周波数ですので、波形はかなり崩れています。ちなみに同じ矩形波でも100Hzまで周波数を上げてみましょう。

矩形波100Hz
矩形波100Hz

矩形波でも100Hzまで周波数を上げると、それなりに矩形波らしくなります。

聴感上はどうなのか?

やはり、ノイズは拾い易いです。特に、電源からのノイズには敏感です。この辺りは、電源から回り込むノイズを綺麗にカットしてくれる、オペアンプ(両電源)は魅力的です。ノイズの感受性に関しては改良の余地があります。

実際に音楽ソースから信号を入れ、増幅してみました。一言で言ってシンプルで、飾りっ気のない音が出ます。何となく低域が弱いような気がしますが、これは心理的バイアスによるものかも知れません。