ノイズ対策をヘッドホンアンプに施す

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前回制作したディスクリート ヘッドホンアンプにノイズ対策をしました。前回制作したヘッドホンアンプは、概ね設計通りの性能が出ていました。しかし、ノイズを拾い易いという欠点がありました。今回は、ノイズを拾いにくくなるように対策をしました。

ノイズはどこからやってくるのか?

悩まされているノイズが発生する条件をまとめてみました。以下の条件が揃ったときに出力信号にノイズが乗ります。

  1. ACアダプタを電源としたとき
  2. ボリュームつまみに手を近づけたとき
  3. 入力端子に何もつながっていないとき
  4. 入力端子に接続した機器の電源がOFFのとき

ざっと、このような条件でノイズが乗ります。そして、ノイズは所謂ハム音です。つまり、電灯線から放出された電磁界が原因です。これが、人体や接続された機器との静電結合によってアンプに入り込むことが原因のようです。

ノイズ対策の方法は?

ノイズ対策にはいくつかの方法があります。確実なのは、ノイズの無い場所で使うことです。次に、ノイズが入り込まないように、遮蔽箱に収めることです。その他、増幅度を下げて、ノイズを増幅しないようにする方法もあります。しかし、このアンプの増幅度は二つの電圧増幅部合わせて26dB程度です。ヘッドホンアンプとしては少々高めですが、電力増幅部でVbe×2の電圧損失が生じます。したがって、全体では20dBを割り込む程度の増幅率です。したがってこれ以上増幅度を下げると、使いにくいものになってしまいます。そこで、今回は電力増幅部の入力インピーダンスを下げることで、ノイズへの感受性を下げたいと思います。

ノイズ対策を施した設計

元の設計では、電圧増幅部のベース電位設定用抵抗を、プラス側47kΩ、マイナス側10kΩとしていました。これを、プラス側20kΩ、マイナス側4.7kΩに変更します。これにより、ベース端子の電位は概ね従来のままで、インピーダンスを下げます。この処置は、一段目の電圧増幅部だけでも良いのですが、念のため二段目の電圧増幅部にも施しました。そして、出来上がった回路がコレ↓です。

ノイズ対策を施したヘッドホンアンプ回路図(1チャネル分)
ノイズ対策を施したヘッドホンアンプ回路図(1チャネル分)

ノイズ対策の弊害

この変更により、カットオフ周波数が上昇するという弊害が発生します。計算上のカットオフ周波数は14Hzで、変更前のカットオフ周波数10Hzと比較して4Hzの上昇となります。また、回路各部の電位も若干ではありますが、変動します。これにより、回路図中のC3の極性が変更前と逆になります。しかし、C3にはそれほど大きな電流は流れません。また、電圧差も僅かですので、仮に極性が逆でも、コンデンサを痛めることは無いと思います。

対策済アンプの組み立て

ノイズ対策を前後のディスクリートヘッドホンアンプ
ディスクリートヘッドホンアンプ、新旧

写真左側が対策前、右側が対策済のヘッドホンアンプです。しかし、今回は部品の定数変更ですので、姿は概ね一緒です。

注意)熱暴走防止のため、電力増幅用トランジスタとバイアスオフセット用トランジスタの熱結合が必要です。

ディスクリートなヘッドホンアンプの動作試験

バイアス抵抗変更は、十分な効果がありました。ハムノイズは全く聞こえません。しかし、副作用としてのカットオフ周波数の上昇が気になります。そこで、実際に1kHz時の振幅と10Hz時の振幅を比較してみたいと思います。

正弦波1kHz出力波形
正弦波1kHz出力波形
正弦波10Hz出力波形
正弦波10Hz出力波形

1kHz時のP-P電圧1.97Vに対し、10Hz時は1.37Vです。この差をdB換算すると、-3.15dBとなります。カットオフ周波数の定義は-3dB減衰する周波数ですので、このアンプのカットオフ周波数は概ね10Hzといってよいと思います。当然ですが、対策前と対策後のアンプの聞き比べをしましたが、その差は感じ取れませんでした。

スルーレートはどのくらい?

ついでなので、スルーレートを計測してみました。私の大好きなオペアンプ、njm4580のスルーレートは5V/μsです。そして、njm4580の素となったnjm4558のスルーレートは1V/μsです。つまり、スルーレートが1V/μs以上あればオーディオ用として十分使い物になるわけです。では、今回作成したディスクリート ヘッドホンアンプはオーディオ用として使いものになるのでしょうか? 測定してみました。

ノイズ対策済ディスクリートヘッドホンアンプのスルーレートを測定する
スルーレート測定

55nsあたり1.12Vという測定結果が出ました。これを1μsあたりに換算すると、21.8V/μsとなります。なかなか優秀な値だと思います。このくらいスルーレートが高いと、MHzオーダーの信号でも増幅できると思います。ちょっとやってみましょう。

ノイズ対策したディスクリートヘッドホンアンプは、1MHzでもほとんど振幅は変化しません
1MHzでもほとんど振幅は変化しません

今回作ったヘッドホンアンプは、とても単純な回路です。制約の要因となる、位相補正もなければ、保護回路も入っていません。したがって、1MHzでもちゃんと増幅します。しかも、振幅の変化はほんの僅かです。なかなか優秀なヘッドホンアンプだと思うのですが、如何でしょうか?