積層セラミックコンデンサは音が悪いのか?

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積層セラミックコンデンサは音が悪いという噂を盲目的に信じていました。しかし、本当に積層セラミックコンデンサは音が悪いのでしょうか。実際に積層セラミックを使ってヘッドホンアンプを組んでみました。そして、テスト信号を増幅させた結果を見ながら、噂が本当なのかを確かめてみました。

積層セラミックコンデンサの適用分野

積層セラミックコンデンサは、小型で寿命も長く、比較的丈夫です。そのため、大きな静電容量を必要としない用途に使われることが多くなりました。小型化が必要なスマホ等のデジタル機器に多用されています。その一方で、大きな容量を確保することは難しく、また後述の理由から、音響機器での利用はあまり目にしません。

積層セラミックコンデンサの弱点

積層セラミックコンデンサの弱点を以下にまとめてみました。

  • 逆圧電効果効果による音鳴きが生じる 

電圧を加えると形状変化が起きる。この形状変化による振動が基板に伝わり、音が発生する。

  • 圧電効果により振動を受けた場合に電気的なノイズを生じる

振動などの外圧が加わると、電気的なノイズが発生する。

  • DCバイアスにより容量が低下する

直流電圧を加えると、容量が低下する。(下図は村田製作所HPより/引用)

DCバイアスによる容量の変化

これらの弱点を見ると、積層セラミックコンデンサは音が悪いという意見には納得させられます。とくに、バイアス電圧による容量変化は致命的ともいえるでしょう。また、圧電効果によるノイズは、確実に音を濁すはずです。

比較のための回路を設計する

今回は、積層セラミックコンデンサが、使い物にならないほど音が悪いのかを試すのが目的です。したがって、手持ちの部品を使って作ります。先日、s8050は使い切ってしまったので、今回使用するトランジスタは2n3904と2n3906としました。この二つのトランジスタは、低ノイズらしいのですが、取り出せる電力があまり大きくありませんので食指が伸びませんでした。そのため、まだ大量に残っています。そして、出来上がった回路が以下の二つです。

アルミニウム電解コンデンサ使用のヘッドホンアンプ
アルミニウム電解コンデンサ使用のヘッドホンアンプ
積層セラミックコンデンサ使用のヘッドホンアンプ
積層セラミックコンデンサ使用のヘッドホンアンプ

以前作成したヘッドホンアンプを元に、トランジスタの特性に合わせて電圧増幅二段目のバイアスの変更を行いました。しかし、それ以外の変更は行っていません。

回路組み上げ

比較のために、電解コンデンサ使用のものと、積層セラミックコンデンサ使用のものを作りました。

比較のための二つのヘッドホンアンプ
比較のための二つのヘッドホンアンプ

上の写真の左側が電解コンデンサ使用で、右側が積層セラミックコンデンサ使用のものです。

積層セラミックコンデンサ使用のヘッドホンアンプ 一部拡大
積層セラミックコンデンサ使用のヘッドホンアンプ 一部拡大

右側の回路を少し拡大してみました。黄色い楕円状の部品が積層セラミックコンデンサです。

カットオフ周波数の比較

先ずはカットオフ周波数の比較をしてみます。出力振幅が-3dBとなる周波数を探してみました。先ずは電解コンデンサです。

電解コンデンサ使用ヘッドホンアンプのカットオフ周波数
電解コンデンサ使用ヘッドホンアンプのカットオフ周波数

1kHz時の振幅を3Vとして、振幅が-3dBとなるところまで入力信号の周波数を下げていきました。その結果、電解コンデンサ使用時のカットオフは9Hzであることが解りました。次に、積層セラミックコンデンサの方を同様に測ってみました。

積層セラミックコンデンサ使用のヘッドホンアンプのカットオフ周波数
積層セラミックコンデンサ使用のヘッドホンアンプのカットオフ周波数

積層セラミックコンデンサのカットオフは15Hzでした。しかし、同一容量の電解コンデンサを使用した方のカットオフは9Hzでした。やはり、DCバイアスによるコンデンサの容量低下が起きているようです。

高域側のカットオフ周波数

蛇足ですが、高域側のカットオフ周波数も測ってみました。

電解コンデンサの高域側カットオフ
電解コンデンサの高域側カットオフ

今回使用したトランジスタは、以前使用したトランジスタよりも高域側の特性が良いようです。高域側の-3dBポイントは3.5MHzでした。

積層セラミックコンデンサの高域側カットオフ
積層セラミックコンデンサの高域側カットオフ

積層セラミックコンデンサ使用の方は、3.6MHzでした。これは、電解コンデンサ使用のものより100kHz高い周波数です。しかし、ここでの100kHzの差には大きな意味はありません。測定誤差の程度の差でしかありません。

直線性の確認もしてみました

今回は周波数特性以外も計測してみました。これにより、積層セラミックコンデンサがオーディオ用途に使えるか否か、私なりの答えを出したいと思います。先ずは、階段波と三角波を入力し、直線性の計測をしてみました。

階段波による直線性の確認
階段波による直線性の確認

階段波を増幅した結果、段差と各段の幅が均一であることが解りました。これは、電位による増幅率の差が無いことを示しています。

三角波1kHz
三角波1kHz
三角波100kHz
三角波100kHz

1kHzと100kHzの三角波を増幅してみました。その結果、三角を構成する線は直線であり、歪みが無いことが解ります。最後に、1kHz正弦波を増幅した時のFFTもとってみました。

積層セラミックコンデンサを使用することによる、高調波歪みは見られませんでした。
FFT

紫色のグラフがFFTです。左端に大きな山があります。これが、1kHzの正弦波です。しかし、それ以外の山はグラフには表れていません。これにより、高調波歪みが発生していないことが解ります。

積層セラミックコンデンサは使い物になるのか?

今回、積層セラミックコンデンサを信号経路に使ったヘッドホンアンプを作って、特性を見てみました。その結果、DCバイアスによる容量の低下が起きていることは解りました。しかし、周波数特性としては、可聴域を十分カバーできていました。また、直線性や高調波歪みの有無も確認しました。そして、その何れも良好な結果を示していました。したがって、巷間言われているほど、積層セラミックコンデンサは悪くないことが解りました。実際に、音楽ソースに接続して鳴らしてみましたが、積層セラミックコンデンサを印象付けることはありませんでした。つまり、電解コンデンサと比較して、聴感上の差異は感じられませんでした。