パクったヘッドホンアンプ(LT1364から一部パクり)

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パクったヘッドホンアンプを作ってみました。先日、リニアテクノロジー社のLT1364というオペアンプの等価回路を検証しました。そして、驚異のスルーレート1000V/μSの秘密が何となくわかりました。その後、LTSpiceでの検証も行いました。しかし、位相余裕が少ないことによる発振のしやすさも再現されました。そして、今回はLT1364の特徴である、消費電力の少なさと、優れたスルーレートを持ったヘッドホンアンプを作ります。しかし、LT1364の欠点である位相余裕はある程度確保する方針です。

LT1364の高性能の秘密はエミッタフォロワにあった

LT1364の内部等価回路パクったヘッドホンアンプのアイデアは、この回路図からパクりました。
LT1364の内部等価回路

上の図はLT1364のデータシートから引用したものです。この回路を眺めていて面白いことに気づきました。このなかの信号増幅は④⑨⑩がエミッタ接地で、それ以外の①②③⑪⑫はエミッタフォロワです。(※正確には②と⑫はプッシュプルです。しかし、プッシュプルは、二つのエミッタフォロワを組み合わせたものと見做せます。)

つまり、エミッタフォロワを多用すると、スルーレートが向上するのかもしれません。

エミッタフォロワだけではアンプにならない

しかし、エミッタフォロワだけではアンプは成り立ちません。なぜなら、エミッタフォロワは信号を増幅しないからです。エミッタフォロワは、入力信号をそのまま出力します。

エミッタフォロワは電力増幅する仕組みです。したがって、アンプを構成する場合、電圧増幅回路と組み合わせます。つまり、前段で電圧増幅を行います。そして、後段でエミッタフォロワで電力増幅するわけです。

もう一つの気がかりな回路構成

LT1364の電力増幅段はプッシュプルのAB級動作です。プッシュプル電力増幅段をAB級動作させるには、ボルテージシフトが必要です。一般的には、ダイオードを使って行います。しかし、LT1364では、エミッタフォロワを二つ組み合わせてこれを行っています。ダイオードを使ってボルテージシフトを行う場合、アイドル電流が必要です。つまり、ある程度(数mA)電流をダイオードに流しておかないとボルテージシフトしてくれません。しかし、エミッタフォロワであればトランジスタがONになる僅かな電流で事足ります。つまり、バイアスをエミッタフォロワで作ることで、アイドル電流を削減できます。

パクったヘッドホンアンプの回路設計

LT1364を部分的に真似たヘッドホンアンプ回路
LT1364を部分的に真似たヘッドホンアンプ回路

先ず、電圧増幅は差動増幅回路で行っています。しかし、普通は存在するQ1のコレクタ抵抗がありません。これは、かなり変則的です。しかし、反転出力は使用しないので、反転出力を作るコレクタ抵抗は不要です。また、Q3も省略したいところです。しかし、Q2の出力ではQ4とQ5、二つのトランジスタをトライブできませんでした。これは、偏に差動増幅回路のインピーダンスが高いためです。しかし、インピーダンスを低くすると、オフセットが大きくなります。そのため、Q3で電力増幅を行って、Q4とQ5を駆動することにしました。

パクったヘッドホンアンプの組み立て

LT1364パクりヘッドホンアンプ回路図
LT1364パクりヘッドホンアンプ回路図

ステレオ2チャンネル分の回路図も用意しました。かなりシンプルです。そして、いつものようにユニバーサル基板の上に組み上げました。

LT1364を一部パクったヘッドホンアンプ
LT1364を一部パクったヘッドホンアンプ

部品点数がかなり少ないので、組み立ては容易です。何となくギュウギュウに詰め込むのが好きなので、基板の片隅に回路を押し込んでいます。抵抗も、何となく立てて配置するのが昔のラジオっぽくて好きです。なお、使用したトランジスタは、BC547とBC557です。値段も安く、入手性も悪くありません。しかし、定番の2SC1815と2SA1015への置き換えが可能です。抵抗値を変える必要はありません。また、電源電圧も、ここでは±6Vとしていますが、±2.5Vでの動作確認もしています。したがって、006Pを抵抗分圧した±4.5Vでも元気に動いてくれます。

パクったヘッドホンアンプの性能試験1,矩形波

パクったヘッドホンアンプに矩形波を入力して、ステップ応答を見てみます。ここでは、1Hz,1kHz,10kHz,100kHzを入力したときの出力波形を観察します。

オペアンプLT1364をパクったヘッドホンアンプ性能試験1Hz矩形波増幅時の出漁波形
1Hz矩形波
オペアンプLT1364をパクったヘッドホンアンプ性能試験1kHz矩形波増幅時の出漁波形
1kHz矩形波
オペアンプLT1364をパクったヘッドホンアンプ性能試験10kHz矩形波増幅時の出漁波形
10kHz矩形波
オペアンプLT1364をパクったヘッドホンアンプ性能試験100kHz矩形波増幅時の出漁波形
100kHz矩形波

以前行ったオペアンプのステップ応答試験の結果が思い出されます。オーバーシュートやリンギングは見られません。100kHzまで周波数と上げると、さすがに角が丸くなります。しかし、可聴周波数範囲なら、どのような波形でもビシッと増幅してくれます。

パクったヘッドホンアンプの性能試験2,正弦波

正弦波の方は1Hz,1kHz,10kHzと-3dBポイントとなった1MHzの出力波形を見てみます。なお、出力電圧は1Hz入力時にP-P約2.5Vに調整しました。

オペアンプLT1364をパクったヘッドホンアンプ性能試験1Hz正弦波増幅時の出漁波形
1Hz正弦波
性能試験1kHz正弦波増幅時の出漁波形
1kHz正弦波
性能試験10kHz正弦波増幅時の出漁波形
10kHz正弦波
性能試験1MHz正弦波増幅時の出漁波形
1MHz正弦波

-3dBポイントは1Mhzでした。したがって、このヘッドホンアンプの周波数特性はDC~1MHz(+0dB,-3dB)といったところでしょう。なかなか優秀だと思います。心配していた、クロスオーバー歪みは見られませんでした。また、発振も生じませんでした。位相余裕については、LTSpiceでのシミュレーションで70°確保されていました。したがって、位相補償無しに使用することができます。

パクったヘッドホンアンプの性能試験3,直線性とスルーレート

先ずは、三角波と階段波を入力し、増幅後の波形を観察します。これにより、特定の電位での歪みが発生していないか。また、電圧による増幅度の変化が無いことを確認します。

三角波入力時の出力波形
三角波入力時の出力波形

三角波入植時の出力波形は、直線で構成されています。これにより、電位による増幅度の変化が無いことが解ります。

階段波入力時の出力波形
階段波入力時の出力波形

階段波の方も問題ありません。波形変化の原因となるコンデンサが信号経路に入っていませんので当然の結果でしょう。

次に、スルーレートの測定をしてみました。

スルーレートの測定
スルーレートの測定

測定の結果、140nSあたり796mVの変化でした。これをV/μSに換算すると5.7V/μSとなりました。LT1364の1000V/μSには遠く及びません。しかし、オペアンプですと、旧タイプのNE5532が6V/μS(現行品は9V/μS)だったはずです。したがって、オーディオ用としては十分でしょう。

なお、パクったヘッドホンアンプを±6Vで動作させたときのアイドル電流は9mAでした。抵抗分圧回路で6mA消費しますので、アンプ自体のアイドル電流は3mAです。これなら、電池駆動でも安心して使用できます。