カレントミラー負荷差動増幅ヘッドホンアンプ-再挑戦

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カレントミラー負荷の差動増幅ヘッドホンアンプに再挑戦しました。前回の設計では、シミュレーションの結果、位相余裕が無く発振の恐れがありました。発振は、位相補償コンデンサの設置で回避できます。しかし、信条として信号経路にコンデンサを入れたくありませんでした。そのため、前回はカレントミラーの導入を諦めました。しかし、今回は再度カレントミラーを使用した差動増幅回路に挑戦します。

発振は一段目差動増幅回路で発生していた

シミュレーションを繰り返し、発振がどこで発生するのかを突き止めました。発振は二つある差動増幅回路のうち、一段目で発生することが解りました。そこで、一段目の差動増幅回路はオーソドックスな抵抗負荷の差動増幅回路としました。そして、二段目の差動増幅回路をカレントミラー負荷とし、二段目の増幅率を大きくしました。

カレントミラー負荷差動増幅ヘッドホンアンプ回路設計

いつものように、設計はLTSpiceを使用して行いました。使用素子は入手性の良いBC547とBC557です。また、電源電圧は12Vとし、これを抵抗分圧で±6Vの電源として使用します。そして、出来上がった回路図は以下の通りです。

カレントミラー負荷使用ヘッドホンアンプ回路図
差動増幅二段カレントミラー負荷使用ヘッドホンアンプ回路図

設計した回路については、シミュレーションを行い、位相回転及びノイズ、高調波歪みの確認を行いました。

カレントミラー負荷差動増幅回路のシミュレーション結果、周波数特性、位相回転シミュレーション
周波数特性、位相回転シミュレーション結果

周波数特性は、可聴周波数範囲で概ねフラットです。そして、-3dBポイントは3MHzあたりとなりました。位相遅れが180°となるのは7MHz近辺です。しかし、7MHzでの利得は3dBで、マージンは15dB程度確保できていますので、発振は起きないはずです。

次に1mW出力時のFFTをシミュレーションしてみました。

カレントミラー負荷差動増幅ヘッドホンアンプ、1mW出力時のFFTシミュレーション結果
1mW出力時のFFTシミュレーション結果

二次高調波は-80dB程度で、十分低い値ですが三次高調波は-50dB程度と大きめです。パーセンテージで示すと、3%程となります。つまり全高調波歪みは3%です。これはかなり悪い数字です。

カレントミラー負荷差動増幅ヘッドホンアンプ組み立て

いつものようにユニバーサル基板上に回路を組んでいきます。念のため、使用トランジスタのhFEは±5以内に収まるよう選別しました。そして、出来上がったのがコレ↓です。

カレントミラー負荷差動増幅ヘッドホンアンプ制作、完成したヘッドホンアンプ
完成したヘッドホンアンプ

チャンネル当たりトランジスタ10石使用のヘッドホンアンプの組み立てはなかなかの手間でした。使用トランジスタ数では、過去に制作したプッシュプル6パラ・ヘッドホンアンプに次ぐものです。なお、カレントミラー負荷を使用することで消費電力が減少しましたので、電源回路は簡略化しています。

カレントミラー負荷差動増幅ヘッドホンアンプの性能試験

いつものようにテスト信号を入力し、出力波形を観察します。

先ずは矩形波の増幅結果から見ていきましょう。

カレントミラー負荷差動増幅ヘッドホンアンプ①矩形波1Hz
①矩形波1Hz
②矩形波1kHz
②矩形波1kHz
③矩形波20kHz
③矩形波20kHz

矩形波の増幅結果は、若干オーバーシュートが見られますが、概ね良好です。オーバーシュート対策として、出力側にスナバ回路を付加しても良いでしょう。しかし、スナバは周波数特性に影響しそうなので、今回は見送りました。

次に正弦波の増幅をしてみましょう。

④正弦波1Hz
④正弦波1Hz
⑤正弦波1kHz
⑤正弦波1kHz
⑥正弦波20kHz
⑥正弦波20kHz
⑦正弦波3.6MHz(-3dBポイント)
⑦正弦波3.6MHz(-3dBポイント)

正弦波の方は、可聴周波数域は綺麗な波形が出ています。また、-3dBポイントは、波形は崩れ始めていますが3.6MHzでした。これらの結果から、今回作ったヘッドホンアンプの周波数特性はDC~3.6MHz(+0,-3dB)でした。

次に、スルーレートを割り出します。

スルーレート
スルーレート

矩形波入力時の立ち上がりは、165nSあたり3.02Vでした。これをμSあたりに換算すると、18.3V/μSとなります。この数値は優秀です。抵抗負荷差動増幅回路では、これまで出すことができていない数値です。

次に、直線性確認のため、三角波と階段波の増幅結果を見てみましょう。

角波増幅結果
三角波増幅結果
階段波増幅結果
階段波増幅結果

三角波、階段波の増幅結果を見る限り、直線性は十分確保できていることが確認できます。

実際に鳴らしてみた結果

前回作成した、抵抗負荷型差動増幅ヘッドホンアンプは、かなり出来が良かったのですが、これは更に上でした。呆れるほどフラットな特性で、低音から高音域まで見事に押し出してきます。また、帰還信号を出力端から取っていますので、ヘッドホンのインピーダンス差による特性変化がありません。更に、理論上のダンピングファクターは無限大です。音は締まりがあり、余計な低音の膨れ上がりは全くなく、高音の不自然な艶もありません。ダンピングファクターが低いアンプの、おおらかな鳴り方が好みの方には受け入れられないでしょう。しかし、あいまいさのない、締まった鳴り方が好みの方には最適なヘッドホンアンプだと思います。