NE555でd級アンプを作る – 設計・シミュレーション

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NE555でd級アンプを作ってみます。d級アンプを作るなら、手っ取り早く専用ICを使用するのが最適解です。しかし、興味本位ではありますが、NE555を使ったd級アンプを作ってみようと思います。今回は、回路設計とシミュレーションまでを行ってみます。

タイマーIC、NE555でデジタルアンプは作れるのか?

d級アンプは、入力されたアナログ信号を二値の信号に変換します。これを量子化と呼びます。量子化方式にはいくつかの方法があります。しかし、d級アンプで使われる、主な量子化方式は二つです。一つは、パルスの密度に変換するPDM変調です。そしてもう一つは、パルス幅に変換するPWM変調です。

NE555のアプリケーションノートには、PWM変調回路が掲載されています。これを参考に、PWM変調のd級アンプを作ってみます

NE555を使用したPWM変調回路 – NE555アプリケーションノートより

アプリケーションノートの回路をアレンジ

アプリケーションノートに掲載の回路には、一つ問題があります。それは、サンプリングクロックの供給を外部から行う必要があるということです。しかし、部品点数は極力削減したいと考えています。そこで、NE555一つでクロック生成とPWM変調を行うようにアレンジしました。そして、出来上がったのが下の回路図です。

NE555を使用したd級アンプ回路図
NE555を使用したd級アンプ回路図

サンプリング周波数は大体1MHzとしました。しかし、アプリケーションノートでは、サンプリング周波数は最大160kHzとされています。そのため、実機で正しく動作しない可能性があります。その場合には、回路図中のC3,R3,R4を調整する必要があります。

出力電力を稼ぐため、Q1とQ2の二つのトランジスタで電力増幅を行います。なお、このプッシュプル回路では二値のデジタル信号しか扱いません。そのため、スイッチング歪対策は不要です。したがって、ここではバイアス回路を省略し、b級動作としています。

なお、出力部分にはC5とR6で簡易なローパスフィルターを設置しています。これは、電源電圧がモロに出力されることによる外部機器への悪影響を抑えるためです。また、C4のカップリングコンデンサで、オフセットDC成分を阻止しています。

シミュレーション結果

回路を組む前に、シミュレーターを使って動作検証をしました。先ずは量子化が正しく行われることを確認します。20kHzの正弦波を入力し、ローパスフィルタ通過前の信号を見てみます。

20kHz量子化波形
20kHz量子化波形

シミュレーション結果を見ると、幅が不均一なパルス信号が並んでいることが解ります。この信号から、ローパスフィルタでサンプリングノイズを取り去ると、アナログ信号に復調できます。

NE555によるPWM変調

1kHz正弦波を入力したときのローパスフィルタ通過前の波形を見てみます。

1kHz正弦波PWM変調結果
1kHz正弦波PWM変調結果

ローパスフィルター通過前の波形は、-5Vと+5Vの二値の信号になっています。しかし、この波形の周波数成分を見ると、正しく変調されていることが解ります。

FFTで周波数成分を抽出
FFTで周波数成分を抽出

FFTで周波数成分を見ると、1kHzと1MHzにピークがあることが解ります。1kHzは入力された1kHzの正弦波です。そして、1Mhzのピークはサンプリングノイズです。つまり、この信号から1MHzとそのn倍のサンプリングノイズを取り去れば、復調できるわけです。

ローパスフィルターによる復調

復調の様子を確認するために、ローパスフィルター通過後の波形を見てみましょう。

ローパスフィルター通過後の波形
ローパスフィルター通過後の波形

ローパスフィルターにより、1kHzの正弦波が復調されていることが解ります。ただし、簡易なフィルターですので、減衰したサンプリングノイズが出力に残っています。そのため、出力波形が縦方向にブレていることが解ります。では、サンプリングノイズがどの程度、出力信号に残っているのでしょうか。FFTで周波数成分を見てみます。

ローパスフィルター通過後の周波数成分
ローパスフィルター通過後の周波数成分

フィルター通過前と比較して、1MHzのサンプリングノイズが小さくなっています。そのレベルは-60dB程ですので、出力側の機器への影響は限定的でしょう。また、サンプリングノイズは、可聴域を大きく外れた周波数です。したがって、聴感への影響はありません。

実用性は?だけど、ブレッドボードで検証してみたい

正直、実用性は疑問です。しかし、シミュレーションの結果はそれなりでした。したがって、ブレッドボードでの仮組くらいはしてみようと思います。