ヘッドホンアンプに執着する – カレントミラー再挑戦

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ヘッドホンアンプに執着しています。これまで作ってきたヘッドホンアンプは、十分実用になります。もちろん、可聴域の周波数は漏れなく増幅出来ています。しかし、重箱の隅を突くように、測定器を使って測定をすると、弄りたい部分が見えてきます。そして、これまで入力インピーダンスには無頓着でした。しかし、ハイ受けロー出しを意識して作ったアンプの良さも分かってきました。そこで、今回は入力耐性の強化と、入力のハイインピーダンス化をやってみました。

ハイ受けアンプの良さ

これまでは、外来ノイズの侵入を嫌って、入力インピーダンスが低いヘッドホンアンプを作ってきました。しかし、入力インピーダンスによって、音が変化することに気づきました。特にドライブ能力の低い再生機器の場合には、ボリューム位置により音質が変化することに気づきました。以前も書いたのですが、ボリュームを上げると明らかに音が痩せるのです。これは、測定器を使って確認もできました。

入力耐性

入力のハイインピーダンス化に合わせて、入力耐性の強化も行います。前回作ったヘッドホンアンプは、差動増幅部のエミッタ負荷に抵抗器を使用していました。これを、トランジスタで組んだカレントミラー回路に変更します。この変更により、差動増幅回路の動作範囲が広くなります。そして、出力が飽和しにくくなり、より大きな信号も取り扱えるようになります。前回作ったヘッドホンアンプは、0.2V程度の入力で飽和し、出力信号がクリップしていました。今回は、もう少し大きな信号も取り扱えるようにします。

回路設計

一段目差動増幅回路をカレントミラー負荷にたヘッドホンアンプ回路図
一段目差動増幅回路をカレントミラー負荷にしました

今回は一段目の差動増幅回路を、カレントミラー負荷にしました。しかし、この回路は、すこし変則的です。

上記回路図のQ10を電流リファレンスとするため、コレクタとベースをショートしています。その結果、Q10のコレクタ及びQ2のコレクタ電位は、マイナス電源+Vbe(0.6V程度)に固定されます。したがって、一段目の非反転出力は振幅しません。その代わり、Q1コレクタの反転出力を、二段目の反転入力に入れ、Q4コレクタから非反転信号を得ます。

つまり、反転増幅を二回行って非反転信号としています。取り出した信号をQ5とQ6で構成するダイアモンドバッファに送ります。ここで、「信号+Vbe」と「信号-Vbe」の二つの信号を作り、Q7とQ8のプッシュプルをAB級動作させます。

入力インピーダンスを高くするため、RgINPUTを51kΩとしました。また、負帰還側グランドも同じ51kΩとしました。負帰還抵抗は300kΩとし、アンプ全体の増幅率は6.9倍、16.7dBとしました。

机上シミュレーション

実際に組み立手前に、LTSpiceでシミュレーションしました。先ずは、周波数利得のシミュレーション結果です。

ヘッドホンアンプの周波数利得と位相のシミュレーション結果
周波数利得と位相のシミュレーション結果

ここで確認しておかなければいけないのは、位相が180°となる周波数と利得です。グラフから読み取ると、位相が180°回転する周波数は3MHzあたりです。3MHz時の利得をグラフから読み取ると、-8dBとなっています。位相180°のときの利得がマイナスとなっていますので、この回路は発振しません。

次に、ステップ応答のシミュレーション結果を見てみましょう。

ヘッドホンアンプのステップ応答シミュレーション結果
ステップ応答シミュレーション結果

信号立ち上がり及び立下りの部分にオーバーシュートが見られます。しかし、周波数応答のシミュレーション結果からも分かるように、オーバーシュートはすぐに減衰します。したがって、2pFという小さな進相コンデンサでも十分効果が得られていると判断できます。

次に正弦波のシミュレーション結果も見てみましょう。

ヘッドホンアンプの正弦波シミュレーション結果
正弦波シミュレーション結果

正弦波のシミュレーション結果を見ると、信号が数ミリボルトマイナス側にオフセットしています。欲を言えばビシッと真ん中に揃えたいところですが、仕方がありません。なお、オフセットについてはグランド抵抗が高いことも影響していると思います。

ヘッドホンアンプ組み立て

いつものようにユニバーサル基板に部品を植えていきます。

組み立て完了したヘッドホンアンプ
組み立て完了したヘッドホンアンプ

今回のヘッドホンアンプは、部品点数が増えましたので、基板の密度感が増しています。今回も設計自体は12V電源で行っていますが、実使用は9Vです。しかし、稼働する電源電圧の幅はかなり広く、4.5V~30V位まで動作します。なお、電源電圧9V、無信号時の消費電流は12mAでした。006P乾電池で30時間は稼働するはずです。

ヘッドホンアンプの性能試験

試験信号を使って、出力信号の品質を見ていきましょう。先ずは、矩形波の増幅結果を見ていきましょう。

1Hz矩形波
1Hz矩形波

今回作ったヘッドホンアンプも例によってDCアンプです。したがって、1Hzという非常に低い周波数でも歪みなく増幅出来ます。もちろん、DCアンプには危険性も伴います。したがって、万人にお勧めできるものではありません。

1kHz矩形波
1kHz矩形波

ほんの僅かですが、オーバーシュートが見られます。

20kHz矩形波
20kHz矩形波

20kHzまで周波数を上げると、オーバーシュートというよりも、リンギングが見られます。進相コンデンサをもう少し大きくしても良かったかも知れません。ただし、この程度であれば、聴感に影響はありません。

次に正弦波です。

1kHz正弦波
20kHz正弦波
20kHz正弦波
380kHz正弦波:マイナス3dBポイント
380kHz正弦波:マイナス3dBポイント

正弦波の方は、可聴域でオフセットは見られません。見事です。なお、-3dBポイントは380kHzで、高域は可聴域を大幅に超えています。

次に三角波と階段波の結果を見てみましょう。

三角波
三角波
階段波
階段波

階段波の方は、オーバーシュートが細かく出ていて、少し乱れています。しかし、三角波と併せて、リニアリティーは十分に確保できていると思われます。

最後にスルーレートを計測してみました。

スルーレート
スルーレート

1.66μSあたりの電圧変化は11.7Vでした。これを1μSあたりに換算すると7V/μSとなります。この値は、オペアンプNE5532と同等です。音声信号増幅用としては十分な値です。

制作したヘッドホンアンプを実際に聴いてみた

今回は、入力端子のグランド抵抗を大きくし、入力インピーダンスを高めました。その結果、やはりノイズは拾い易くなりました。例えば、Wi-Fiルーターやスマホを近づけると、出力信号にノイズが乗ります。ただ、これは意図的に近づけた場合です。したがって、普段から注意を払う必要は無いでしょう。

しかし、入力インピーダンスの低いアンプを好きの感覚では、低音と高音が強調されたように感じます。ラウドネスが効いたような、人工的な音にも感じます。しかし、性能試験の結果から見ても、これは忠実な再生の結果であることは明らかです。最近は入力インピーダンスを高めに設計していますので、このような音にも慣れ始めました。

なお、今回は二つある差動増幅回路の一段目をカレントミラー負荷にしました。次は、二段目をカレントミラー負荷にしたヘッドホンアンプを作ってみようと思います。