『ある女の生涯』

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『夜明け前』をめぐる一人旅で藤村の生家跡に設けられた藤村記念館にも足を運び、藤村の足跡に痛く感銘をうけました。そして、島崎藤村の著作をいくつか手に取っております。いくつかの著作を読み進める中で、衝撃的な著作に巡り合いました。先ずは『新生』です。その題材自体衝撃ですし、作者自身の暗部を世間に晒すものです。そして、『ある女の生涯』については、藤村の家の背負った憂鬱な部分を題材にしています。作者自身の姉を題材としたことは多くの資料から明らかで、主人公となる「おげん」の不遇で呪われた半生が書かれています。

これほどまでに衝撃的な著作というものを私はこれまで知りませんでした。描かれている、一人の女性の人格が壊されていく過程には恐ろしさを感じます。さすがに実名は伏されていますが、その内容から主人公のモデルとなった人物の特定は極めて容易です。『夜明け前』とも通ずる所のある内容ですが、藤村を知るうえで重要な一篇でしょう。

さて、藤村は晩年「簡素」という言葉を愛し、藤村記念館の入場券にもこの言葉が使われていますが、宿場の本陣に生まれ、幼少期を馬籠の宿で暮らし、その土地に引き継がれるもの、家が背負っている一切を文筆により世間に晒すことでそぎ落とし、そして気の持ちようや暮らしぶりを簡素にしたいという気持ちの表れだったのではないかと思います。