坂口安吾の『白痴』

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古い本というのは面白いもので、今だったら絶対に出版できないだろうと思われるものもあります。逆に竹内浩三氏の作品のように、発表当時はスミ塗りだらけで、現代だからこそ全てを読める作品というのもあります。しかし出版大国の日本で数十年の時を経て消え去っていない作品というのは存在価値が広く認められていると受け取って良いのでしょう。

さて、今回手に取った坂口安吾氏のの『白痴』はまさに前者に該当する作品で、現在では恐らく出版できない作品でしょう。差別的な表現や書くことすら憚られる単語もかなり含まれています。これも書かれた時代背景を反映しての事でしょう。内容としては、突然転がり込んだ女を押し入れに匿い、そして空襲で焼かれた住処を捨て、女と共に焼夷弾による業火から逃げきり、一幅の安らぎを得るという内容です。この話のどの程度が創作で、どの程度が実体験に基づいているのか解りませんが、主人公の境遇には少しだけ憧れを持ちます。

そういえば、黒澤明氏の映画『白痴』は本作とは無関係な、ドストエフスキーの原作によるものなんです。初めて知ったときは軽い落胆を覚えました。