『妙な話』

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『妙な話』という題名どおり妙な話です。登場人物の僕と、神出鬼没の亡霊のように現れる赤帽が同一人物なのか? もし同一人物だとすれば僕は精神を病んでいるようにも思えるし、結末では僕がヒヤリとした心模様が描かれていて、どうにもちぐはぐな印象を受けます。

一節によると、著者はこの作品を書いた頃、既に精神を病んでいたとのことです。同時期に書かれた『歯車』では幻覚が現れる様子も書かれています。また、同作品では精神病院に通い、睡眠薬漬けになっていた様子もうかがえます。

私が芥川龍之介氏の作品で最も好きな『蜜柑』に描かれたような一瞬の色彩や瑞々しさは全く姿を消し、どんよりと霞のかかった薄灰色の世界が描かれています。ユーモアを持って描かれた『桃太郎』や、風刺を含めて描かれた『鼻』等の比較的初期の作品にあった快活さはすっかり姿を消しています。この作風の変りようは読んでいてある種の恐ろしさを感じます。