『夏への扉』

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夏への扉SFはあまり好きではないのですが、評判が良いので読んでみました。原作が書かれたのは1956年ですから60年も前の本です。その割にはそれほどの古さは感じられません。訳されたのは1963年ですから、使われている名詞は大分古臭く感じる部分が有ります。例えば家事用のロボットは文化女中器(ハイヤード・ガール)という名前で出てきます。何とも古臭い。

とはいえ、自動製図機やテーブルに組み込まれた新聞閲覧器、ウォーターベッドやお掃除ロボットなど、作品中に出てくるいくつかは実用化されています。まあ、冷凍睡眠やタイムマシーンはまだ実用化されていませんけどね。

物語の舞台は、1970年です。一匹の猫ピートと飼い主のダンは11の扉(ピート専用の扉を勘定に入れれば12)のある家に住んでいます。ピートはいつもドアを一つ一つ巡り、ダンはピートの後についてドアを開けます。ピートはいつも夏への扉(ピートが好きな快適で明るい夏に通じるドア)を探しています。ダンはピートが諦めるまで辛抱強くピートの後をついて歩きます。
ダンは発明家であり、文化女中器を発明し、これを製造し、販売する会社を創ります。発明と製造はダンが受け持ち、営業は親友のマイルズが受け持ちます。そこに才気あふれる女性、ベルが事務員としてやってきます。事業は順調でした。しかしあるとき、ダンはマイルズとベルの裏切りによって会社を追い出されてしまいます。そして結婚の約束を交わしていたベルはマイルズの元へ去っていきます。失意のダンは冷凍睡眠で30年後の世界にやってきます。最初は年老いたベルを見返すために。しかし実際にはベルにゾンビドラッグを注射され、邪魔者を追いやるためにベルの手によって冷凍睡眠で30年後の2000年の世界に送られてしまいます。
冷凍睡眠から目覚めたダンは、巨額の価値を持っているはずだった自社の株券が無価値になってしまったことを知り、自暴自棄となり犯罪者として裁判にかけられてしまいます。運よく裁判長の紹介で自動車解体の職を得ます。そして、2000年の世界で活躍するいくつかの商品について知識として吸収します。
そして、2000年において安価になっていた金でできた針金を体に巻きつけ、封印されていたタイムマシンに乗りこみます。ダンは再び1970年に戻ってきます。体に巻き付けていた金を元手に発明に打ち込み、いくつもの特許を取り、これを売る会社を立ち上げます。会社の運営を知り合いに任せたダンは再び冷凍睡眠で2000年に戻ってきます。同じく冷凍睡眠をしていた幼馴染のリッキィーを向かえ、結婚します。

年老いた猫のピートは相変わらず夏への扉を探し、ダンは相変わらずピートの後についてドアを開ける日々を過ごします。

結局、夏への扉が何を表すのか、私には解りませんでしたが、SF嫌いの私にも十分楽しめる物語でした。訳者によるあとがきで、訳者自身この作品が最高のSF作品だと書いていますが、きっとそうなのでしょう。