カレントミラー負荷差動増幅回路を断念
カレントミラー負荷の差動増幅回路を作ってみました。しかし、結論から申し上げると、私好みの特性が出なかったため、断念しました。しかし、これを機に差動増幅二段ヘッドホンアンプの見直しをしました。
カレントミラー負荷の差動増幅は高性能だけど・・・
オペアンプでは、多くの場合差動増幅部はカレントミラー負荷になっています。カレントミラー負荷は、抵抗負荷に比較して、動作可能な電源電圧の範囲を広くできます。また、抵抗負荷回路に比べて増幅率も大きくできます。そこで、カレントミラー負荷の差動増幅を使ったヘッドホンアンプを設計してみました。
位相補償コンデンサは必須
実際に回路を組む前に、シミュレーションしてみました。先ずは、位相補償コンデンサが無い場合の位相回転のシミュレーションをしました。
緑色実線の周波数特性を見ると、1MHzあたりで利得の上昇がみられます。そして、緑色破線で示される位相が1MHzあたりから回転が発生しているのが解ります。そして、位相回転が始まる周波数と、出力上昇の周波数が一致してしまっています。つまり、位相補償をしなければ発信をする可能性が高いです。実際にトランジェント特性のシミュレーションで発振が確認されました。
シミュレーションの結果、概ね500kHzの発振が確認されました。
位相補償コンデンサ設置後の特性
位相補償コンデンサ設置の効果を確認してみました。シミュレーション結果は以下のようになりました。
位相補償コンデンサを設置することで、位相遅れが解消したことが解ります。また、位相の変化と利得の減少がほぼ同時に起きていることもわかります。つまり、位相の回転は生じているけれど、同時に利得も下がっているので発振は生じません。位相補償コンデンサ設置前は位相回転の開始が、利得の上昇と同時に起きているのとは逆です。
しかし、気がかりなこともあります。位相補償の結果、5kHz~200kHzあたりの利得が減少しています。減少量は最大2dB程度です。しかし、2dBの差は、聴感上感じ取れる差です。したがって、位相補償コンデンサが必須である回路の採用は諦めます。
信号経路にコンデンサを置きたくない
これは、個人的なこだわりでしかありません。また、無知がそうさせているのかも知れません。信号経路にコンデンサを置いたとしても、その悪影響をキャンセルする方法方はあるでしょう。それでも、信号の波形を歪ませてしまうコンデンサは信号経路上に置きたくありません。これは、シミュレーション結果を見ても明らかです。
下に示したシミュレーションは位相補償なし、カレントミラーを排した場合のものです。シミュレーション結果を見ると、周波数特性は100kHzあたりまではフラットです。その後、増幅率は教科書通り6dB/Oct.で下がっていきます。位相補償コンデンサを設置した時のような可聴域の利得低下はありません。また、カレントミラー負荷回路で見られた500kHz付近の不自然な増幅率の上昇もありません。
前回作ったヘッドホンアンプの改良
この前作った、差動増幅二段のヘッドホンアンプはかなり気に入っています。しかし、少し気になっていた部分もあります。それは、二段目の差動増幅回路のコレクタ抵抗を一つ省略している点です。差動増幅回路のトランジスタは、コレクタ側とエミッタ側の両方に抵抗を置いています。これによって、エミッタフォロワとエミッタ接地回路を兼ねた動作をしています。しかし、前回の回路では非反転入力側のコレクタ抵抗を省略しました。これにより、非反転入力側だけがエミッタフォロワ動作に限定されました。これにより、動作が不均衡になっていたはずです。
差動増幅二段ヘッドホンアンプの改良
改良後の回路図がこれです。
二段目差動増幅回路のコレクタ抵抗を10kΩに統一しました。ちなみに、差動増幅回路のエミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比は経験上1:2が最適です。また、抵抗値は高いほどオフセットが小さくなる傾向があります。しかし、二段目に関しては、エミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比は経験上1:3が最適です。また、オフセット電圧は一段目が支配的です。したがって、二段目は神経質にならずに決めても大丈夫です。しかし、バイアス回路をドライブ能力を確保するため、低めの抵抗値をおすすめします。
なお、負帰還抵抗は、浮遊リアクタンスを少しだけ気にして前回の1/10にしました。これは、気休めです。
回路組み上げ
いつものように、ユニバーサル基板に回路を組みました。なお、追加発注した基板の色が、これまでと違います。理由は分かりません。
なお、今回の抵抗の追加によって、ラッチアップの危険性はかなり低くなったはずです。しかし、念のため出力部分だけグランドを分離しています。
差動増幅見直し後の性能測定
先ずは、矩形波の波形を見てみましょう。
前回気になっていた、20kHz時のオーバーシュートは無視できる程度に小さくなっています。
続いて正弦波です。
正弦波は概ねきれいに出ています。-3dBポイントは600kHzでした。したがって、このヘッドホンアンプの周波数特性はDC~600kHz(+0dB,-3dB)となります。しかし、かなり波形が崩れていますので、実力としてはもう少し低い周波数です。
次にスルーレートを見てみましょう。
695nSあたりの出力電圧変化は5.2Vでした。これをμSあたりに換算すると、7.4V/μSとなります。オーディオ用アンプとしては十分な値です。
次に三角波と階段波の増幅を行い、直線性を確認します。
三角波の増幅波形から、直線性は確保できていると判断できます。また、階段波からも電圧による増幅度の変動は見られません。また、前回少し気がかりだった、階段波に見られたオーバーシュートも小さくなっています。
実際に鳴らしてみた感想
一言で言って、良くできたヘッドホンアンプだと思います。改良前も、素性の良さを感じました。しかし、改良により、素性の良さに更に磨きがかかったように感じます。
低音は力強く、豊かです。しかし、その一方で中音域は少しだけ後退した印象です。そして、前回と異なるのは、高音域の存在感が増した点です。前回制作したヘッドホンアンプも高域にあるべきキラキラ感はありました。しかし、わずかな改良により、キラキラ感に更に磨きがかかったように思います。また、単純な回路から得られる音は、飽くまでピュアで、入力に忠実です。これまで作ってきたヘッドホンアンプの中でも突出した素性の良さを感じました。