『風転』
花村萬月氏の作品は好きで、それなりに手に取ってきましたが、『風転』に関しては、文庫本になった時に購入し、上巻を読み終えたところで何故か挫折し、十年以上も読まずに放置してしましました。というのも、この作品は、上巻中巻下巻に分かれる大作で、その分量に圧倒されて途中で放棄してしまったんですね。
従って、主人公であるヒカル少年は作品の中で10年以上も放浪の旅を続けていたことになります。
この作品は、玉川上水に架かる「うど橋」から始まり、九州の桜島で終わります。ヒカルは、東京の自宅をやくざ者と一緒に出発し、バイクで北海道に向かい、そして九州を通りその先の沖縄に向かおうとします。長い旅の間、やくざ者の鉄男から一人前の男になる教育を受け、だんだんと逞しくなる様を描いたロードストーリーと言ってよいでしょう。鉄男とヒカルは、どちらも追われる身であり、出来るだけ目立たぬように旅をつづけ、寝泊まりは公園やキャンプ場に限っています。終盤に鉄男はヒカルに対し、良心と正義について語ります。勿論物語ですし、書かれている内容も現実には起こりえない様な事柄も多いのですが、何故か鉄男とヒカルに惹かれます。もし自分がもっと若ければ、そして鉄男のような人が身近にいれば一緒に旅をしたいと願うでしょう。もし身近にヒカルのような少年がいれば、バイクを連ねて旅に出て、色々と語って聞かせたいと思うでしょう。それほど、鉄男とヒカルが魅力的に描かれています。そして、北海道のキャンプ場で毎日読書にふける生活というのも一度はやってみたいと渇望する自分がいます。
さて、花村氏の作品は読み終えた後の余韻が何とも好きなのですが、この作品については余韻はさほど感じずに、北海道のキャンプ場の場面が実に魅力的に感じました。少し長すぎたのかな。しかし、間違いなく好きな作品です。