『蛇を踏む』

Spread the love

蛇を踏むこういう小説をジャンル分けするとファンタジーとなるのだろうか。主人公がある日蛇を踏むところから物語は始まる。踏まれた蛇は主人公の母親と偽った人間の姿をして現れる。食事の支度をし、夜は蛇の姿に戻って天井に張り付いて眠る蛇との生活は何とも奇妙である。それにもまして、主人公の職場であるカナカナ堂という数珠屋は奇妙である。

作者自身があとがきに「うそ話」と書いているように荒唐無稽な寓話である。同録の『消える』『惜夜記』も同じくうそ話である。さすが芥川賞受賞作だけあって、『蛇を踏む』の独特の世界観はなかなか面白い。ただ、たたみかけるような結末は少し乱暴な感じを受けた。

このような、ファンタジーというか寓話というかは、特段好きではないが、嫌いな訳でもない。しかし、小説というものを突き詰めるとこのようなものになるのかなあとは思う。ドキュメンタリー以外は作り話という身も蓋もない極論を持ち出せば、小説は作り話で、それを突き詰めるとファンタジーとか寓話になってしまうのかも知れない。

さて、『蛇を踏む』だが、今一つ結末が好きになれない。結末がもっと丁寧に描かれていればもっと楽しめたのだが。書き出しが秀逸なだけに残念に思う。